5479人が本棚に入れています
本棚に追加
/145ページ
暗雲
まさか、こんなことになるなんて…。
会社帰りに、知らない女性から声を掛けられた。
「平岡みのりさん?」
「はい、そうですが…。
すみません、どこかでお会いしましたか?」
どこかで会った?
「突然、すみません。私、澤野京香と申します。立花くんの同僚で、いつも親しくさせて頂いています。」
「えっ!」
この人、あの時の!
きれいな人だと思った。
大きな目に真っ赤なくちびる。
若い女性にしては濃すぎる化粧が、その魅力を半減させているような気もするけれど、華奢だけどセクシーな人だった。
ラグジュアリーブランドの洋服の着こなしを見ても分かるように、自分に自信がある女性だということが一目見て分かった。
「どうして、私に?」
「ええ、少し、お時間頂けるかしら?」
私達は、すぐ近くのカフェに入った。
席について飲み物をオーダーしたが、お互いに飲み物に手をつけることはない。
「単刀直入に言わせてもらうわ。
私、立花くんと交際しようと思っているの。」
な、何を言ってるの?この人。
私は瑛太と…わかって言ってるの?
「あなたの存在は、彼から聞いてる。
でも、私は諦める気は無いわ。
今回の出張も一緒だったのよ、彼から聞いてないの?
ふふっ、私の父は日本支社の役員をしてるのよ。だから、私は彼を上へ押し上げることだって、いくらでも出来るのよ。
ねえ、別れてくれない?
あなたの存在がね、邪魔なのよ。」
何だ、この女⁉︎
「私はどうしてあなたから、こんなこと言われないといけないのかわかりません。
瑛太に言われるなら、まだしも…。
ふたりの問題はふたりで解決しますから。
失礼します。」
と席を立った。
「あなた、自分が彼に相応しいと思っているの?」
澤野さんが追い討ちをかけるように言った。
これ以上、我慢出来ない。
「じゃあ、あなたなら相応しいとでも?
澤野さんと仰いましたね、あなたって…とても不愉快極まりない方です。失礼。」
そう言い捨て、私は速やかにカフェを後にした。
な、なんなの?
なんで?
バカにしてる、あの女。
悔しくて涙が溢れた…。
また泣いたよ、私。
つき合ってから、泣いてばかりだな。
あっ、カフェのお金払うの忘れた。
なんて、冷静に考える自分が可笑しい。
ふふっ、まぁ、いいか? 誘ったの向こうだし。
あー、これからどうしよう?
瑛太が、どんどん離れて行ってしまう。
最初のコメントを投稿しよう!