亀裂

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亀裂

「瑛太、明日からも私、ひとりで電車で行く! 甘えてばっかりだと、瑛太がいない時に電車で行くのがしんどくなっちゃうからね。 だから、自分で行くね。」 私の顔は強張ったままだ、笑えてないよね。 引き攣った笑いを、瑛太はどう思って見ているのだろう。 ドアに向かいかけた瑛太の動きが止まった。 ゆっくり瑛太が振り返ったが、その顔は怒っているのか、悲しんでいるのか分からない表情をしていた。 「何でだ?何かあるんだろ、理由が。」 低い声で聞かれだけど、怯まない。 私は何も悪くないよ。 ただ、瑛太が好きなだけ… 「何も…」 正直に昨日のことを言えばいいのか? だって、瑛太が私に嘘を! 二股かけるつもりなの? 疚しくないなら、隠さないで言ってよ… 気がついたら、涙が溢れていた。 「瑛太こそ、私に隠し事してる。私は瑛太に嘘は吐いてない。 信頼できない人とは、やっていけない。」 震える声で私は言った。 頰をつたう涙を拭うこともせずに… 「みのり!何言ってる!どういう意味だ? 俺はお前を裏切っていないし、お前と別れることなんか、絶対に無い! 別れるなんて、許さないからな。」 あまりにも自分勝手だ! 嘘吐いたことだって、認めてないし! 頭の中を様々な場面や、言葉がよぎる。 悲しさよりも腹立たしさが勝った瞬間、 「帰って! 今日は瑛太の顔っ…、見たく無いっ、っ」 泣いて、しゃくり上げながらの言葉に、迫力なんか全く無かったけど、出来る限り毅然としていたつもり。  私のどこに、こんな力があったのだろう。 瑛太が力を抜いたのか? ドアから私は瑛太を押し出した。 泣きながらドアを閉めて鍵を掛け、ドアにもたれたまま、声を殺して泣いた。 何で本当のこと、言ってくれないの? 正直に言ってくれたら、私だって… 「もう嫌だ、何でこんなことに!うっ、うぅ〜、」 子どもみたいに泣いた。 お母さんに叱られた時みたいだと思うと同時に、幼い頃の懐かしい記憶が甦った。 やっぱり、こんな時はお母さんに会いたいよ。 「うっ、うっっ、…」 後から後から、とめどなく溢れる涙。 頭に浮かんだのは、父と母の優しい顔だった。
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