暗雲

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暗雲

 まさか、こんなことになるなんて…。 会社帰りに、知らない女性から声を掛けられた。 「平岡みのりさん?」 「はい、そうですが…。 すみません、どこかでお会いしましたか?」 どこかで会った? 「突然、すみません。私、澤野京香と申します。立花くんの同僚で、いつも親しくさせて頂いています。」 「えっ!」 この人、あの時の! きれいな人だと思った。 大きな目に真っ赤なくちびる。 若い女性にしては濃すぎる化粧が、その魅力を半減させているような気もするけれど、華奢だけどセクシーな人だった。 ラグジュアリーブランドの洋服の着こなしを見ても分かるように、自分に自信がある女性だということが一目見て分かった。 「どうして、私に?」 「ええ、少し、お時間頂けるかしら?」 私達は、すぐ近くのカフェに入った。 席について飲み物をオーダーしたが、お互いに飲み物に手をつけることはない。 「単刀直入に言わせてもらうわ。 私、立花くんと交際しようと思っているの。」 な、何を言ってるの?この人。 私は瑛太と…わかって言ってるの? 「あなたの存在は、彼から聞いてる。 でも、私は諦める気は無いわ。 今回の出張も一緒だったのよ、彼から聞いてないの? ふふっ、私の父は日本支社の役員をしてるのよ。だから、私は彼を上へ押し上げることだって、いくらでも出来るのよ。 ねえ、別れてくれない? あなたの存在がね、邪魔なのよ。」 何だ、この女⁉︎ 「私はどうしてあなたから、こんなこと言われないといけないのかわかりません。 瑛太に言われるなら、まだしも…。 ふたりの問題はふたりで解決しますから。 失礼します。」 と席を立った。 「あなた、自分が彼に相応しいと思っているの?」 澤野さんが追い討ちをかけるように言った。 これ以上、我慢出来ない。 「じゃあ、あなたなら相応しいとでも? 澤野さんと仰いましたね、あなたって…とても不愉快極まりない方です。失礼。」 そう言い捨て、私は速やかにカフェを後にした。 な、なんなの? なんで?  バカにしてる、あの女。 悔しくて涙が溢れた…。 また泣いたよ、私。 つき合ってから、泣いてばかりだな。 あっ、カフェのお金払うの忘れた。 なんて、冷静に考える自分が可笑しい。 ふふっ、まぁ、いいか? 誘ったの向こうだし。 あー、これからどうしよう? 瑛太が、どんどん離れて行ってしまう。
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