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じいちゃんの家はコナラやクヌギの木立に囲まれている。近くには深大寺蕎麦で有名な名所もあり、自然豊かな野川も流れていた。
家は昭和三十九年の東京オリンピックの年に建てられたと聞いている。
築五十年以上経っているから、かなり古い家だ。
縁側の庭先にひまわりが咲いていた。
作務衣姿のじいちゃんは安楽椅子に寄りかかりながら切り分けたトマトに手を伸ばした。思ったより元気そうだ。
「和真がいろいろ調べて、買ってきてくれたのよ」
ばあちゃんが説明している。
「そうか」
じいちゃんは面倒臭そうに口を動かした。にこりともしない。初めからこんなトマトは食えるかという顔つきだ。
群馬産の朝採りトマトを桐生まで行って買ってきたのだ。現地で試食したら、めっちゃ旨かったことを僕は告げた。
それでもじいちゃんはむすっとしたまま、トマトを口に入れた。
「うーん。ちがうな」じいちゃんは気難しそうに首を横にふった。「うまいトマトが食いてえなあ。どうだ、和真、アルバイトをやらんか。うまいトマトを探してきたらたんまりはずむぞ」
「え、このトマト、不味かったの?」
僕はがっかりすると同時に腹立たしくなった。おカネよりもじいちゃんの顔がほころぶ方が良かったのに。けれどその気持ちは一瞬で吹き飛んだ。
年寄りなんてものは我儘で頑固だ。バイト代をくれるというなら、ようし、探してやろうじゃないか。徹底してネット検索して、とびきり上等なやつを食わしてやるよ。それくらい、カンタンじゃん。
僕はすっかり意固地になっていた。
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