115人が本棚に入れています
本棚に追加
/155ページ
なぜ、おっちゃんがそこまで話したがるのか解せなかったが、僕はしばらくつきあうことにした。
僕もグラスのウーロン茶を飲んだ。
おっちゃんは今度は落ち着かない様子で煙草に火をつけた。火口を赤くして、煙を吐き出した。
拷問による取り調べをした警官は、戦後は退官した者が多かったが、中には罪の重さに耐えきれず自殺した者もいたという。
「もちろん、例外もある」おっちゃんはひそひそ声になった。「浮かばれねえのは獄中死した被害者とその家族だ。復讐のために退官した警官を嬲り殺しにするんだよ。死体は底なし沼に捨てたり薬品で溶かしたりな」
「なんかウソっぽいですね」
「ウソなんかじゃねえ。群馬のある集落にな、それを専門にやる連中がいたんだよ。そこからのれん分けしてもらった衆もいたらしくてな、ほれ、そこのドクダミ神社の近所に家をかまえた。死体は深く掘った肥溜に捨てたらしいぜ。なにしろこの辺りは、昔はよ、畑と雑木林だけだったから、肥溜なんかいくらでもあった。糞の池に沈めるとよ、人体なんかは化学変化を起こして溶けちまうんだ」
「それがブグイミ信仰とどう関係があるんですか」
「ドロドロに溶けた遺体を引き上げて、ドクダミの葉っぱで清めると、どんな悪党でも善人でも浄化されて新しい生命になるんだとよ」
「へえ」
「そこで登場するのが、及川誠三だ」おっちゃんはえへんと咳払いをしてから、酎ハイを舐めた。「及川は死体処理をやってたらしい…」
「物騒な話ですね」
僕は興味を惹かれて身をのりだした。
及川誠三は死んだばあちゃんの前のダンナだ。ばあちゃんは及川家に嫁いでいた。離婚した原因はそのことと関係があるのだろうか。
野球童との接点もどこかにある気がした。
最初のコメントを投稿しよう!