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「毬夢さんはマリコとも名のっていました。少なくとも、僕と知り合った頃は」僕は初めてドクダミ神社で出会った時の様子を話し、それから懇意になったと。「なぜ、彼女が母親と同じ名前を使ったのか、心当たりはありませんか」
シスターはミステリアスにほほ笑んだ。
「亡くなったお母さまと同化したかったのではないでしょうか」
「それだけ母親思いだったと?」
「おそらく」
正論だけど・・・
魚の小骨が引っかかったような違和感を払拭できないでいると、シスター蒲原は考え深そうにつけたした。
「或いは・・・聖母マリア様にあやかったのかもしれませんね」
毬夢(マリコ)がキリスト系の学校の生徒だけに説得力はあった。
「なるほど。しかし、彼女はドクダミ神社の宮司の娘だと聞いています。まさに異教徒の人間が改宗していますが・・・何か理由でもあったのでしょうか」
「おほほほ」シスターは突然甲高い声で笑った。「失礼。あなた、まるで刑事さんみたいに、根掘り葉掘りお聞きになるのね。あなたが本物の高校生なのか疑わしくなってきましたよ」
「いやだなあ、本物ですよ」
「ごめんなさいね。でもねえ、プライバシー保護もあるから何でもかんでもお話しするわけにはいかないのよ。あなたの目的は、毬夢さんを助けることなのでしょう? それにしてはのんびりしてませんこと?」
「おっしゃる通りです。彼女を救ういい方法はありませんか」
「そうねえ。命に係わることですもねえ。さっきも申し上げたように、祠の下が空洞になっているかもしれません。あなた、そこへひとりで乗り込むおつもり?」
僕は返答に窮した。
シスターが含むような笑い声を漏らした。
「どう見てみても、あなたは騎士の柄ではないわね。どうしましょ」
あらかじめ、答えを用意しているような口ぶりだった。
「どうしていいかわからないから、貴女を訪ねました。じいちゃんの手紙にもそう書いてあった」
「人を頼ってはあの子は救えないわ。あなたに考えはないの? なければ考えなさい。きつい言い方かもしれないけど、生半可な気持ちで行動すると、毬夢さんはもっとひどい目に合うでしょう。もちろん、橘内和真君、あなたもです」
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