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僕はソファの背もたれに寄りかかりながら、部屋の天井を見上げた。
昼下がりの室内は静まり返り、気まずい沈黙が漂った。聞こえるのは壁時計の秒針が刻む規則正しい音だけである。
無言の危険と殺気を克服しなければ道は開けない・・・僕は感じとっていた。驟雨のような暗い渦はすぐそこにある。命を賭ける覚悟。
「キャンパスに自然農園がありますよね」
僕は切り出した。
シスターはたいして興味もなさそうに言った。
「ええ、あります。今の時期はトマトやキュウリが栽培中ですよ」
「見学していってもいいですか」
そんなことを言い出すとは思ってもみなかったらしい。拍子抜けしたような表情で承諾した。
「どうぞご自由に。ただあなたは部外者なので、インタビューネームプレートがはっきりわかるようにしてくださいね」
シスターは潮時と判断したのか、テーブルのインターホンに手を伸ばした。
「お客様がお帰りです」
待つこともなくドアが開いて、近くで待機していたのか、僕を案内してくれた警備員のおっちゃんがすぐに現れた。
「ちょっと待って」シスターが僕を呼び止めた。「あなた、ケータイはお持ち?」
「はい」
「電話番号を教えてちょうだい。わたくしのも教えます」
緊急時の連絡先(メールアドレスも)が交換できたのは収穫だった。
シスターはやはり味方のようだ。
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