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夜の女学院
翌日の昼過ぎ。
展望カフェテラス。武蔵野の街並、点在する雑木林、はるか遠くに薄紫の山々が見渡せた。
僕たちは窓際の席に座ってタピオカミルクティーを飲んでいる。
「あはは。なかなか満足してもらえないんだ」
事情を知ったマリコがおかしそうに笑う。
僕はタピオカミルクティーをひとくち飲んだ。
「たかがトマト、されどトマトだよ。バイト代は払えんって言ってるしさ」
「でさ、あたしにどうして欲しいわけ?」
「美味しく食べるコツみたいなもの、あるかな。及川さんなら何かヒントをくれそうな気がして」
ネットで調べても、じいちゃんが喜びそうな内容は載っていなかった。なんでもかんでも、ネット情報だけではダメなんだろう。
「コツはないけど・・・あるよ」
彼女はあっさりと言った。
「マジで?」
「うん」彼女は少しだけ眉間にしわを寄せて頭をあげた。「ただ昼間はヤバい。夜ならいけるかもしれないけど」
「夜? その方がもっとヤバくね? イミフなんだけど」
「しっ!」彼女は唇に指をあてると急に声を落とした。「あたしの学校の敷地内に自然農園があるのよ。そこは大学の管轄だけど、付属の中高生なら自由に出入りできる。うちは女子校だから男子は保護者とか特別な許可がないと入れない。昼間は大勢の警備員とシスターが頑張ってるからトマトごときでは入園は不可。だけど自然農園には六十年前と同じ栽培方法のトマト畑があるの。そこのトマトをいただきましょう。二つや三つ、ノープロブレムよ。深夜十二時には誰もいないから」
「それで夜か」
あまりにも大胆な作戦に僕は思わず唾をのみ込んだ。
「あなたのおじいちゃんさ、昔食べたトマトがきっと忘れられないのかも」
彼女は遠くを眺める目つきになった。
「あれがターゲットよ」
彼女の細い指先に、聖グリーンヒル女学院の白い校舎とチャペル。
冒険か法令順守か。
夜の女子高に侵入かあ。捕まったらどうなるのだろう・・・
いや考えるな、行動しろ。僕の中で悪魔があっかんべーをした。
「よし、のった!」
「そうこなくちゃ!」
僕たちは声を潜めて、打ち合わせをはじめた。
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