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「これから使うよ。最悪今生の別れになるだろうから、最後にあかりの顔を見ていきたいと思って」
そう伝えると、アサトは泣きそうな顔をした。包帯に覆われていない左半分の顔を歪めながら、それでも彼は、あかりの病室のドアを開けてくれる。
すると心得たとばかりに、長戸が車椅子を押してくれた。
いい友達を持ったと思う。
「ありがとうな」
ドアを押さえているアサトに礼をいうと、彼は顔をくしゃくしゃにした。
「馬鹿野郎」
そんな言葉を受けながら、吉昌の体はベッドの前に運ばれた。この病室も個室だから、誰に気を遣うこともない。いまは医者も看護師もあかりの家族もいなくて、二人きりになれる時間だった。
ベッドの前まできて長戸が車椅子から離れ、病室の外へと歩き出す。二人きりにしてやろうという配慮だろう。
「ありがとうな。長戸」
告げると、床に水の滴るような音がした。ごめん、と、長戸が謝罪する。
「本当なら、本当の友達ならきみを止めるべきなのに、ぼくは……ぼくたちは……!」
二人分の嗚咽が、ドアのほうから聞こえてくる。
彼らの気持ちは、はたしてどんなものだろう。
学校を目茶苦茶にされて、大事な友達や先生を失った。他にも多くの人が傷ついた。
その被害を、犠牲の大きさを目の当たりにしている。
そしてそのすべてをいま、友達一人の寿命と引き換えにしようとしているのだ。
いったいどんな気分だろう。
けれども人の気持ちなど、結局は本人にしかわからない。だったら吉昌がわかる気持ちは、吉昌自身の気持ちでしかない。
だから伝える。
「友達だよ。おまえらは、おれの本当の友達だよ」
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