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ひどくリアルな、夢を見た。
電車に轢かれる夢だった。
夢の中の自分は線路に落ちた小さな子供を抱えて、ホームの下に駆け込むところでレールに足を取られ転んだ。
そしてその上を、車輪の悲鳴が通過した。
耐え難い激痛に襲われて、そこで世界が暗転した。
次のシーンでは、自分はどこかの病室にいて、泣きじゃくっていた。脚がない、脚がない、と。
目まぐるしく、夢が動く。
しゃくりあげるように泣く自分の手を、次の瞬間には誰かが強く握っていた。顔を上げるとそこには、ずっと前から好意を寄せていた人がいた。
平凡だけれど優しくて、男子にしては大人しくて、なにを考えているのかよくわからなかった幼なじみ。知りたいという気持ちだけで、幼い頃は散々遊びにつき合わせたものだ。
その彼が初めて悩みを打ち明けてくれたのは、小学六年の夏の日。祖父母の期待が重過ぎると、その年齢にしては難儀な悩みだった。
けれども、打ち明けてくれたことが嬉しくて、自分ははしゃぐようにいった。関係ないと。自分の未来は、自分で決めるもの。いまが楽しければそれでいいと。
その言葉を受けて、彼はどこか吹っ切れたようだった。ゆるくありふれた日常を、悩まずに生きるようになった。
その彼が、とてもつらそうな顔で自分を見ている。
「おまえは子供を助けたんだ。正しいよ。あかりは正しいことをしたんだよ」
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