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その後少しして電車は動かされ、出られるようになった吉昌はまず、拓真を抱え上げてホームの上の母親に渡した。
感動の再会を果たした親子の後ろは、駅員やら野次馬やらでごった返している。どこからかパトカーと救急車のサイレンまで聞こえてきた。
救急車はいらないだろう、と苦笑する吉昌に、すっと手が差し出された。ホームにぺたんと座ったあかりが、吉昌に手を伸ばしてきたのだ。ぼろぼろと、その瞳から涙が零れ落ちている。
やっぱり泣かせてしまったと、苦い気持ちになった。
「おれを引き上げる前におまえが落ちるだろ」
あかりの手を断って、吉昌は自力でホームに上がることにする。しかし線路からホームまでは以外に高さがあって上りづらく、結局ホームに飛びついて這い上がるような格好になってしまった。ちょっとかっこ悪い、と自分で半目になっていると、這い上がった直後、正面からあかりに抱きしめられた。吉昌はその勢いにびっくりする。
「ちょ、あかり……」
胸が、当たっているのだが。
「生きててよかった。吉昌」
肩口でぐずるような声がして、吉昌は野暮なことはいうまいと思った。
「それはおれの台詞だよ。おれが行かなかったら、あかりが飛び込んでたんだから」
ゆっくりと腕を持ち上げて、吉昌は自分の手を、あかりの背中に回した。
「あかりが無事で、よかった」
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