時計

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 遠足の日に告白されてーーあのあと、つき合ってほしいというのが男女のつき合いのことであると説明されてーー晴れて、その告白を受けた安藤吉昌は西村あかりと恋人同士になった。  まさか自分があかりと交際することになるなど考えてもいなかったので、正直現実味というか実感が湧かなかった。  けれどもあの日から、あかりはそれまで以上に吉昌といたがるようになったし、土砂崩れの際吉昌があかりを抱え上げて走った現場を目撃していた女子生徒たちも、全面的にあかりを応援していた。  吉昌のグループはどうかというと、アサトは「やっと両片想いが両想いになったね」と笑い、長戸は新調した眼鏡を押し上げて、一言「おめでとう」とだけ祝福してくれた。  風岡はというと、「おそろいだね」とのたまった。実は土砂崩れ騒ぎで気が動転していたあかりと同じ班の女子、秋山みのりも、山を下りる途中で転び、足を負傷した。それを風岡はここぞとばかりに背負って男らしさをアピールし、山を抜けた先で想いを伝えた。秋山が了承し、つき合い始めたというのだ。  五十嵐はというと、「おれに感謝しろよ」などと、得意げな顔をした。  確かに五十嵐が時間を戻してくれなければ、あかりたちは死んでいたのだ。  それに吉昌が気を失ったあと、五十嵐は土砂で寸断された道を無理矢理越えて、吉昌とあかりのもとにやってきたのだという。  土砂からは逃げ切ったものの石を頭に受けのびていた吉昌を、あかりは半狂乱に近い状態で揺すっていた。それを止めて、五十嵐は血がにじんでいた吉昌の頭にタオルを巻いてくれたらしい。
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