時計

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 ごくり、と、吉昌は唾を飲んだ。 「時計は、持ち主と同じ時間を刻んでいく。そして死ぬんだ。持ち主が死んだあとは二度と動かない」  そう告げた瀬川は、教室のドアを開けた。 「覚えておいて」  暗に、滅多に使うなと釘を刺すようにして、彼女は教室を出て行ってしまった。  だが時計について、情報は得られた。  時計へのダメージは持ち主に返ってきてしまうこと。写真や映像に残らないということ。どういうわけか大人には見えない上に触れないということ。  そして、色が変わるどころか錆びついてしまったら、持ち主の寿命が危ないということ。時計は持ち主にしか動かせないということ。  使う上では最後の二つの情報が重要だ。吉昌には心構えというものができた。  正直いままでは、自分にどれくらいの寿命が残っているのかも、時計があとどれくらい使えるものなのかもわからない状態だったのだ。それが、時計の色と錆の侵食具合で示されるというなら、それである程度注意を払える。  時計は持ち主のいうことしか聞かないというが、それならこれまでと同じだ。むしろ孤軍奮闘していた頃に比べれば、いまはもう一人の時計の所有者五十嵐もいるし、なにより協力してくれる仲間を得られた。もしものとき、これまでよりやりやすくなったといっていい。  ついでに、使用者以外に動かせないというのは、もし失くしても悪用を防げるという利点である。失くすことは考えたくないが。
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