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時計を見下ろし、吉昌は身の引き締まるような気持ちになった。
瀬川の幼なじみが中学生のうちに心不全で亡くなったという話を聞いて、実感が湧いた。これは、流れる時間という条理を不条理に遡る、因果に反逆する時計だ。
その代償はやはり、時間で支払われるのだろう。
そうでなければ、心不全で亡くなる中学生など滅多にいないはずだから。
つまり、間違いなく寿命は削られていて、そのときがきたら吉昌も、五十嵐も死ぬのだ。
慎重に使わなければと肝に銘じた。
そのときだった。
「吉昌」
からからと教室の後方のドアを開けて、あかりが顔を覗かせた。どうやら、保健委員の集まりから解放されたらしい。
ゆっくりと、あかりは教室の中に入ってきた。
杖こそ突いていないものの、彼女の歩き方は、捻挫した左足をかばっているようでぎこちなかった。
最初こそ包帯でぐるぐる巻きにされていた足は、いまは薄いサポーターに巻かれて、その上から靴下を履けるくらいには腫れも収まっている。この学校の上履きはそもそもスリッパタイプなので、あかりはサポーターと靴下の上からそれも難なく履くことができていた。見た目には健常者と変わりないのだ。
「遅くなってごめん」
あかりは吉昌を見て、一緒に帰ろう、と笑顔で告げた。
その表情に、吉昌は張りつめていた心がゆるむのを自覚した。懐中時計を、ポケットにしまう。
それが合図になったように、全員の表情もゆるんだ。
「さて、ぼくらも帰ろうか」
アサトの一言で、それぞれが自分の席に戻り、帰り支度を始めた。
その光景に、あかりは不思議そうな顔をする。
「なんか、邪魔しちゃった?」
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