先生の帰国

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先生の帰国

その朝、雨上がりの虹が出ていた。湿気が地表を霧のように包み、道路脇の植え込みの葉が、雲間からの光に雨粒を輝かせている。 僕は宝物であるリニアモーターバイクに跨り、専用道路をかっ飛ばした。 今日は待ちに待った日。隣国(ランバドール)に医学研究者として派遣されていたアリム先生が帰ってくる。 風を切って走るバイク。 清々しい空気の中、いつもの景色が僕の両側で線になる。 早く家を出たので急ぐ必要はないが、居ても立っても居られない。 アリム先生は親しみやすくて声が大きくてユーモアがあり、二年前に新任でこの医療研究センターに勤め始めた僕をいつもサポートしてくれた。 先生が派遣されると聞いた日に、恋人に振られたかのようにヤケ酒を飲んでしまったくらい、僕は先生を敬愛していた。 研究所は現在17名が働いている。僕たちはそこで、病原菌やそれが引き起こす細胞への影響などを調べている。 アリム先生は『クドゥ』という病気について調査しに行った。この国では高齢者の半分に一人が患って、死に至りかねない病気だ。 本来健全とされる細胞が原因となる病原菌に冒され、そこから出た成分が血液内に溶け出して心臓に到達すると、そこで赤血球が感染し、全身に広がり、機能の弱っている臓器に巣食うようになる。 現在クドゥにかかると、臓器を摘出するか、非常に強いワクチンを打つしか方法はないとされている。 隣国、ランバドールは医療の面で進んでいる。ここディンムル国は50年前に侵略され、ランバドールの植民地とされた。でも10年前には当国の政治体制が変わって寛容になり、僕たちの国も独立を許された。以来自分たちの法律や制度によって形作られている。
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