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アリム先生へ
親愛なるアリム先生。
あなたが亡くなったことを、電子ニュースの小さな記事で知りました。
僕はあれから若年性のクドゥを患いました。
病院では相変わらずワクチンが使われていますが、僕は断りました。僕は先生を信じて闘病を続け、わずか3年で完治しました。
周りにもワクチンを忌避する動きがありますが、あまり一般的ではありません。でも、きっともうすぐ『在庫』はなくなるでしょう。
先生はあの日、雑踏の中で何を見ていたんですか?
何を考えていたんですか?
一人で戦うことを決めたのは、僕や周りの仲間を巻き込まないようにするためだったんですか?
あなたはいつも明るくて優しくて、声が大きくて、正直で、正義の味方でした。
愛してやまないアリム先生。
あなたが僕の命を守ってくれました。
アリム先生……。
僕は人の海の中に立ち止まった。誰もが迷惑そうに避けていく。歩みを止めることはない。
渦まくような熱気と、溶け合う臭いに目眩がした。
絶えることのない『愛すべきモルモットたち』。
先生の背中を見つけることができなかったあの日から。この人ごみの中で僕はただ一人色を失い、立ち尽くしている。
〈完〉
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