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アリム先生の著書
「アリム先生を見ない日はないなあ」
研究室の先輩が、壁掛けテレビのモニターを見ながら目を細めた。
先生は画面の向こうで、ワクチンや患部の切断をすることなく、正しい食事や温熱療法によって、また火山岩を用いての岩盤浴によってクドゥが完治することを熱弁している。あの日の夜、食事しながら僕に話してくれた内容と同じ。熱意もそのままだった。
ただ、見る度に目の隈は濃くなり、健康そうでない彼の熱弁はどこか異様な雰囲気を醸し出していた。
「まあ、俺たちは暇になったけどな」
「新薬も必要なさそうだし」
どこか白けた言い方は、僕の胸にちくんと針を刺した。
「一言、何かあるだろ。普通」
アリム先生が持ち帰った情報は、僕たちの研究を真っ向から『不必要だ』と否定するものだった。
彼がそういう話をし出してから、研究所の熱意は随分削がれている。
Cチームのアリム先生の彼女にアリム先生からの手紙を渡した。内容をこっそり読みたかったけれど、先生に対して敬意の欠けた真似はしたくなかった。
だから、彼女が読み終えてから聞こうと思っていた。なのに。
彼女は文面を目で追いながら動きを止めた。慌てて腕の通信機器を操作し始めた。きっと先生に電話しているんだろう。
相手は一向に出ない。
僕は手紙の内容が気になって聞きに行こうと物陰から出た。
その瞬間、彼女は手紙をシュレッダーにかけてしまった。
新しい恋人ができたという内容を告げたものだったのだろうか。
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