27人が本棚に入れています
本棚に追加
出会って21年、付き合って20年、一緒に暮らして10年
今思うと…長いようで、あっという間に時間が過ぎてしまった。
「あ…あの…」
こんなにも一緒に居て少しも飽きる事なく、一度として喧嘩をする事もなく
ずっと一緒に居た。
「太田さん、好きです!」
今年は20年ってキリも良いからプレゼントも奮発しよう!
二人で食べるには大き過ぎるケーキを買って、数字を模ったロウソクを立てて
明日、一日は愛しい彼の為に時間を空けて、目一杯甘やかせてあげよう
「ごめん」
きっと今頃、泣き崩れて落ち込んでいるだろうから――
-21年前‐
「今日から新しく皆とお友達になる“太田 圭吾”君です!皆、仲良くしましょうね~」
「お、おおた…けいご…です…よ、よろ、よろしくお願いします!」
小学三年の夏休みが明けたと同時に教室に現れた少年は、緊張して口ごもりながらも一生懸命挨拶をして
初めて見る制服と綺麗な黄金色の髪がとても印象的で、ざわめき出した女子に交って僕も目を奪われてしまった。
「ねぇ!圭吾君ってハーフって本当?」
「お父さんが外人さんなんでしょ~?」
「この学校に来る前まではアメリカに居たって本当??」
休み時間になる度に新しく来た転校生を見に他の教室からも生徒が集まると彼の席の周りにはいつも女子が群がり質問詰めにしては“王子様”って言いながら頬を染め
面白くないと思っている男子生徒からは遠巻きに嫌味を言われ彼は日に日に口数も減り表情も暗くなり…いつしか教室の中で浮いた存在になっていった。
「太田君!僕、多木 幸也って言うんだ!あのさ、良かったら一緒に絵描かない?」
秋になりかかった頃には彼は完全に教室の中で孤立した存在になっていて
僕は風景画を描く授業の時間を使って彼に話しかけ、彼は小さく頷いた。
「太田君!何描こうか?公園の中なら何を描いても良いって先生言ってたし…簡単そうな池にする?」
公園の真ん中にある大きな池を指差して太田君に尋ねると彼は地面を見たまま軽く頷き
子供ながらにどうにか彼を元気付けようとポケットの中に今日の為に隠していたあめ玉を取り出して彼の前の前に差し出し
「内緒だよ?」
「これ…ボクが好きな飴だ…ありがとう」
彼は小さくそう言うと僕に顔を向け、ようやく笑ってくれた。
本当は、今日の為に昨日の夜から誘う練習をしたり、聞き耳を立てて知った好きなあめ玉をワザと持ってきたりと色々と小細工を用意して、ようやく僕達は“友達”になれた。
「ユキ!」
「ケイ君どうしたの?」
「昨日新しいゲーム買ったから今日家に来てよ!」
小学四年に上がる頃には、僕達は互いに下の名前で呼び合って常に一緒に居た。
何をするにもどこに行くにも常に一緒でケイ君は多少強引な所もあったけど、僕の前ではいつも笑って居た。
「あ…今日、お母さんにお使い頼まれてるんだ…」
「…は?それって今日じゃなきゃダメなの?」
「う、うん…お使い行ってからで良いなら遊びに行って良い?」
「…本当はすぐに来て欲しいけど…仕方ないから、終わったらすぐに来てよ?」
「う、うん!」
白に近い金色の髪がふわふわして、大きな瞳が僕をジッと見ながらそう言われ
他の女子にされても何ともないのにケイ君にそうされると最近の僕はドキドキして心臓が痛くなる
「ねぇ、お母さん」
「どうしたの?」
「僕、病気かな?」
「どこか痛いの??」
「んっとね…友達と話してるとポカポカして、ドキドキする」
「あ~ら、ゆきちゃん好きな子が出来たのね!」
「…スキ?えぇ!?」
お母さんに言われて初めて僕は自分の初恋に気付き
あまりの衝撃にその日、約束していたのに僕はケイ君の家に行くのを忘れた。
「昨日約束したのに!どうして来てくれなかったのさ!」
翌日になると案の定ケイ君は怒った顔で僕の前に来て、怒った顔もすごく可愛かった。
初恋を自覚して恥ずかしさから真正面からケイ君の顔が見れなくて顔を背けると
僕の取ったその行動がケイ君を傷つけ、彼は教室の真ん中で大声で泣き出し、その日一日とても大変だった。
喧嘩だと勘違いされて先生に呼び出されて理由を聞かれたけど、言えるはずもなく
二人で話し合いなさい!と言われて教室に二人で残されたけど、そこでも言えるはずもなく
家に帰りたくても彼は僕の服をしっかりと握りしめて静かな時間だけが流れた。
「ねぇ…ユキもボクの事嫌いになったの?」
「き、嫌いになんてなって無い!」
「じゃ、どうして目合わせてくれなかったのさ!」
先に話し出したのは彼からで彼の言葉にすぐに反応して返事を返すとまた大きな瞳が僕をジッと見つめ、正直に言うしかないって諦めた。
「違うよ…嫌いになんてならない!…そうじゃなくて…スキ…だから…恥ずかしいんだ」
「ボクもユキが好きだよ?」
「そうじゃなくて!手を繋いでデートしたりチューしたい“好き”って事!…僕、おかしいんだ…ケイ君も僕も男の子なのに…友達以上に好き…なの」
言い終わったと同時に僕の目からは涙が溢れて来てカッコ悪い所を見られなくないからその場にしゃがみ込んで顔を隠してみたけど、手の平からは涙が零れて
恥ずかしくて、みっともなくて余計に涙が溢れて来た。
「ユキ、顔を見せてよ」
「い、嫌だ!カッコ悪いだろ!」
「カッコ悪くなんてないよ!ユキは世界一カッコ良くて、可愛いから!」
「可愛いって言うな~!可愛いのはケイ君の方だろ!」
「なら、それで良いからさ~、顔見せてよ」
そろそろと顔を覆っていた手の平を広げケイ君と目が合うと彼は顔を真っ赤にさせて笑って居た。
「やっと合った」
「…ごめん」
「ねぇ、初めては何処に行こうか?」
「…え?」
「ユキが初めて話しかけてくれたあの公園にする?それとも他の場所が良い?」
「ま、待って!なに…言ってるの?」
「何って…ボクも言ったでしょ?ユキが好きって…ボク達“そうしそうあい”だね」
彼のその言葉によって僕達のお付き合いは始まった。
大人や他の人には内緒の…二人だけの秘密の付き合いが始まって…
こんなにも長く続くなんて想像もしていなかった。
-15年前-
「ケイ、委員会があるから教室で待ってて」
「嫌だ!ユキと片時も離れたくない」
俺達は、中学二年になった。
初めて話した時に比べると互いに成長して、まるで天使のように可愛かったユキは随分と男らしくなってクラスの女子からはワイルドになったとモテ初め
俺は金色だった髪も色が落ち着きブラウンになった事で外人らしい顔付きが際立ち、寄って来なくても良いのに女共が集まって来るようになってしまった。
「年々甘えん坊になってないか~?なら、この書類を提出だけするから一緒に行こ?」
「待って!んっ!」
いくらワイルドな見た目になってしまっても今でもユキは可愛いままで、はにかむ表情に顔を近づけると俺が何を望んでいるのか理解した様子で辺りを軽く見渡してから柔らかい感触が唇に触れた。
小学四年の時から温めていた気持ちをさらけ出し、付き合いだし
五年の時に保健体育の時間で性教育を習ってから手を繋いでデートするだけだった俺達の関係が一変した。
人目を忍んでキスをして、年を重ねる度にその欲求はエスカレートしていき
今では肌を合わせる関係にまで登りつめた。
「明日日曜だし…エッチしよ?」
唇が離れ、ユキの肩に頭を乗せ耳元で囁くとユキの顔はいっきに真っ赤になって小さく頷いた。
「今日はどっちが良い?俺に入れたい?それとも…入れられたい?」
「…りょう…ほう」
「ふふっ!お~けぇ!ユキ、好きだよ!愛してる」
「お…俺もケイが大好きだよ」
週末になれば必ずどちらかの家に行き体を重ね、重ねる度に妖艶に乱れるユキに俺は一層惚れ、彼を見て、彼に触れる全ての者達が憎く
俺達の間に入ってこようとする者達が邪魔で仕方がなかった。
「太田君、ちょっと良いかな?」
いつもの様にユキの委員会が終わるまで教室の中に居ると女生徒が話しかけて来て、内容は聞かなくても分かった。
「ダメ!」
「え?」
「俺もユキもダメ!」
単調にそう伝えると女生徒の瞳からは涙が溢れ、綺麗だとも思えないその行動に目を背けると丁度戻って来たユキと目が合った。
「ユキ!」
「…あの…ごめんなさい」
ユキが戻って来て嬉しくてユキに抱きつくとユキは、教室の中でまだ泣いている女生徒に対してそう言い
ユキも俺と同じで離れたくないと思ってくれているのか俺の腕をギュッと握りしめ、俺達はそのまま家へと足を進めた。
「ケイが他の人の者になるのは嫌だ」
ユキの家について部屋に入るなりユキは俺に抱きついてそう言い
その表情は今にも泣きだしそうで、ありもしない未来を見て悲しんでいる
「そんな未来は絶対に来ないから」
「分かんないだろ…ケイ、カッコいいし…俺なんて女の子に比べたらゴツくて可愛げもないし…ケイ、モテるし…怖い」
一見、ユキは男らしく見えるが、本当はネガティブで悩み出すと体調を崩す程に自分を追い詰め、俺はそれがとても心地良かった。
彼が悩めば悩む程、ユキの心は壊れ情緒は不安定になり、俺だけを望み
俺のせいで狂っていくユキが愛らしく
俺だけを見てくれるようにユキを閉じ込めたいと思うようになった。
-10年前-
『太田君…ずっと好きだったの』
「…ッチ」
高校三年になり、自由登校が明日から始まるとなれば想いを伝えるべく女子はケイを呼び出し、俺の居ない所で想いを伝える
『あのさ、他の奴に言ってくれない?』
『え…?』
『告って来ても興味ない!』
俺の耳元でケイの突き放す声と女子のすすり泣く声が届き、ケイのその言葉に俺の口元は緩み
「多木?まだ残ってんの?」
教室で一人席に座ってケイの帰りを待っていると部活帰りらしいクラスメイトからの声で自分の口元を覆い隠した。
「多木が太田と一緒じゃないって珍しいな~!つか、なに聞いてんの?」
「え…英語のリスニング」
「うっわ…受験生だからって真面目かよ!んじゃ、俺帰るな!多木も早く帰れよ~」
「あぁ、バイバイ」
『お、太田居たんだ!中に多木居たぜ!』
『ん、知ってる』
「ただいま、ユキ」『ただいま、ユキ』
耳に付けたイヤホンを外しポケットの中に入れるとその一連の流れを見届けてからケイは柔らかく微笑んだ
自由登校と言っても時々は学校に行かなければならなくて、日に日にこの制服を着るのも残り僅かなのだと気づかされる
「ケイ…俺達は、もうすぐ卒業するんだよな」
「そうだな~、この制服ともあと数ヵ月でお別れだな」
「この教室とももうすぐ…なんかそれって淋しいな」
「…なら、最後の思い出にここでスル?」
「へ、はぁ?」
「いや、今思ったらさ~俺らって学校でした事ないじゃん?付き合って十年、キリも良いし高校生らしく性欲に正直にならない?」
ケイの言っている事はあまりにも無茶苦茶で、バレたらなんて微塵も考えていないんだろうけど青色に輝く瞳から眼を離せれなかった。
「良い訳は、ケイが考えろよ!」
「くはっ、了解!」
卒業式
「俺さ…ケイに入れるのも入れられるのも大好きだよ」
「いきなり、どうした?」
「でも、それじゃ駄目なんだよな…俺じゃ…ケイの…家族になれない…っぐす」
「ったく…卒業って言葉に色々考えたんだろ?」
「だって、大学に行けばもっと綺麗な女性と出会う事になるだろ?社会に出たら?俺なんて必要なくなる…ケイに捨てられる位なら今別れる方が」
「なら、丁度良いし!一緒に住もうぜ」
「…へぁ?」
「ユキが俺を盗聴してる事は知ってるし、一緒に居られない時は今まで通り盗聴すれば良いだろ?それでも怖いって言うなら…はい!」
「…うぅ…ひ、卑怯だ…」
俺の左手の薬指には銀色に輝く指輪がはめられ、ただただ泣く事しか出来なかった。
「新居だって既に用意してるし、返事は“イエス”しか聞かないよ!」
「本当に良いのか?お、俺って…病んでる事の方が多いし…盗聴する位危ない奴だし…今ここで離れとかなきゃ…きっとケイを傷つける」
「良いよ」
「これからも盗聴したい…つか、する!」
「くはっ!良いよ!良いよ!」
どんなに-重い-と思われても
どんなに-ウザい-と思われても
俺はケイが居なきゃ“生きていけない”
「ねぇ、ユキ?」
「なに?」
「二度と“別れる”なんて言わないでね?今のは理由が分かったから良いけど…次言われたら俺、何するか分かんないから」
そう言ったケイの瞳は十年一緒に居たのに初めて見る色をしていた。
-現在-
「ユキ、帰ったよ!」
「・・・・・・」
家に帰ればベッドの中でうずくまるユキの姿が目に入り、学生の頃から変わらない男らしい顔をしているのにその顔は涙で濡れ目は腫れている
高校卒業を機に有無を言わさず一緒に暮らし始め
大学の時はバイトをしていたユキだったが、色んな理由をつけてユキを家の中から出さないようにした。
「ユキ?」
就職も俺だけがして、家の中でユキは一日俺の行動を監視している日々を送り
こうなる事が分かっていながら俺はワザと告白される光景をユキに見せる
「お帰りのキスはしてくれないのか?」
ユキの頭を撫でそっとその言葉を耳元で囁くとユキはゆっくりと起き上がりあの頃に比べ少しだけ年を取った顔が俺の前に現れ、俺の唇にキスをした。
「おいで、一緒にお風呂入ろう」
「…グスッ…」
「ほら、泣かないで!不安な分、目一杯甘えて良いから」
名前も知らない女に嫉妬して、俺の返事に安心して
本当にユキは可愛いよ
可愛くて、愛しくて、恋しい
学生の頃はユキを狙っている奴等を潰して来た。
大人になるとそれも出来ないだろ?
だから、ユキにはこの部屋の中に居て欲しい
この部屋の中で…俺の事だけを考えて生きて欲しい
「けぇ…い」
「うん!愛してるよ…ユキ」
これからも -ずっと-
二人だけの世界で
ユキだけを愛している――
ケイだけを愛している――
完
最初のコメントを投稿しよう!