*

1/1
0人が本棚に入れています
本棚に追加
/1ページ

*

彼はどんな服を着ていたっけ。 週末のショッピングモールは人で溢れかえっていた。今日はずっと前から楽しみにしていた映画を観ると約束していたのに。まさかチケットを買っている間にはぐれてしまうなんて。 恥ずかしいからと言って手を繋ぐのを嫌がっていた彼。いっそ強引に繋ぐべきだったかな。 今朝は二人で寝坊してしまい、慌ただしく家を出てきた事を後悔しながら私は周りを見渡す。確か白のTシャツに黒のジーンズだった気がする。そういえば、お気に入りだと言っていた大好きな赤色の靴を履いていたはずだ。目立つから見つかりそうなんだけどなと記憶を辿りながら考える。雑踏の中、先ほどから絶え間なく流れる迷子のアナウンスを聞きながら足元に視線を落とす。これだけの人ごみだし、もう少し探して見つからなかったらアナウンスしてもらおうか。そんな事を思っていた矢先、少し離れた所から聞き覚えのある声がした。 「おかーさん!」 そう呼ばれてふり返ると探していた彼が走り寄ってきた。 「こうくん!よかった、見つかって。勝手に居なくなったらダメでしょう。だから手繋ごうって言ったのに」 「ごめんなさーい。あっちで風船もらった!みてみてー!」 悪びれる様子もなく、嬉しそうに大好きな赤色の風船を手に満面の笑みを浮かべる我が子を見ると怒る気も失せてしまった。 「よかったね。ほら、映画始まっちゃうよ」 そう言って手を差し出すと今度は素直に繋いできた。小学校に上がった途端にママと呼ばなくなって、一緒に出掛けることも少なくなってしまったけど。こういう所はまだまだ子どもだなんて嬉しくなってしまう。子どもの成長なんてあっという間だ。嬉しい反面、少し寂しくも感じてしまうのは親のエゴなんだろうな。 「早く行こう。おかーさん!」 「はーい」 どうかもう少しだけ,ゆっくりと大きくなってね。そう願いながら、繋いだ手をぎゅっと握った。
/1ページ

最初のコメントを投稿しよう!