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布団は足元までめくり上げられていて、水色のシーツが敷かれていた。
艶めかしいとは対極の、寒ざむしい色合いだった。
にもかかわらず、その上に横たわる聡の姿を和は想像した、――想像してしまった。
当たり前のように、服は着ていない、いわゆる全裸だった・・・
和は慌てて、自分の手へと視線を移した。
聡と会うたびに別れの握手を交わしていた手には、今さっき掴んだばかりの聡の手首の感触が残っていた。
冷たくはなかったが肉が薄く、骨張った手首だった。
和は今度は、ギュッ!と両腕で自分の上体を抱きしめてみる。
さっき多分、聡は痛かったなと、改めて思った。
和は腕をほどき、もう一ヶ月前とは違うんだしと、自分に言い聞かせた。
そして、思い切って聡の背中へと呼び掛ける。
「センセイ――」
「お待たせ――」
その時、聡がトレイを両手に持ち、振り返った。
正直、今の和には、ココアなどどうでもよかった。
今日、聡の部屋へとわざわざ来たのは、激マズ!とまでは言わないが、お世辞にも、けして美味しいとは言えないココアを飲むためにではなかった。
和の思いを知る由もない聡は、
「マシュマロ、足りなかったらたして」
と外国製の大粒のマシュマロの袋まで、手渡してくれる。
「ありがと・・・」
それを受け取り、和は自分の前に置かれたカップの中を覗き込んだ。
半分ほど溶け掛かったマシュマロが二個浮いているココアは、以前、聡が出してくれたのよりは濃い色をしているように見えた。
一口、飲んでみると――。
「美味しい‼センセイ、どうして⁉」
和は思わず、叫んでいた。
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