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和の頬へと触れる手はそのままにして、聡は続けた。
「和が、おれに教えてくれたんだ」
「おれが?何を?」
聡はそこで大きく、息を吸い込んだ。
「宗司郎さんと付き合っているおれは、けして幸せじゃなかったことを。――おれ独りでは、絶対に気付けなかった。気付きたく、なかったから」
そして絞り出すように、言い足す。
「今まで考えないように、かんがえないようにしてきた」
「・・・・・・」
白河宗司郎は告白してきた聡につい、妻子があることを隠して付き合ってしまった。
それを、「もっともっと、夢を見ていたいと思ってしまった」と言い表したことが、聡には分かるような気がした。
聡もまた、妻子があることを知ってもなお、宗司郎と一緒に同じ夢を、――それこそ、いつまでもいつまでも見続けていたいと願ってしまった。
それが、幸せだと信じていた。
でも・・・
聡は小さな声だったが、淀みなく続けた。
「目を閉じて夢を見ている内は、前を――、未来を見ることなんて出来ないよな」
そこで、聡は言葉を切った。
そして、ハッキリと和と自分とに告げた。
「そんなのは、けして幸せなんかじゃない」
「センセイ――」
「おれの目を覚ましてくれたのは、和だよ。ありがとう。好き、だよ――」
言い終えるなり聡は、身を乗り出して和へと口付けた。
――シンデレラからではなく、王子様の口付けで目を覚ました眠り姫からのお礼の、お返しのキスだった。
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