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それは、唇とくちびるとがほんの一瞬だけ重なり、すぐに離れるような、ごくごく軽いものだった。
しかし和は、背もたれ代わりにしていたベッドにのけ反る勢いで、テーブルから聡から離れた。
「いきなり、何すんだよっっ⁉」
「あ、ごめん・・・嫌、だったか?」
らしくないことをしたと、聡が明らかに後悔しているように和には見え、思えた。
自分の頬に触れていた手もそのままの高さで、ものの見事に固まっていた。
和は慌てて腹筋を使い、上体を起こした。
「ち、違うっ!」
和と聡とが挟み向かい合っているのは、いかにもひとり暮らし用の、ちゃちな折り畳み式のローテーブルだった。
ほとんど、ちゃぶ台と言ってもいいシロモノだった――。
しかし今の和にとっては、ジャマモノ以外の何物でもなかった。
思い切って横へとずらした拍子に、マシュマロの袋が倒れた。
開けっ放しだった口から、白い塊がコロコロと転がり出てくる。
これで隔てるモノはなくなったとばかりに、和は聡へと近付き、その上体を力の限りに抱きしめた。
手加減なんて考えは言葉そのものが、和の中からすっかり消えていた。
聡の左耳に、それはそれは口惜しげな和のつぶやきが、滑り落ちていく。
「最初のキスは――、おれからするって決めてたのに!告白だって、おれの方からしたじゃん‼」
当然のように言い放つ和に、そういうものなのか?と聡は思った。
しかし、きつく押し付けられた和の胸板に向かって必死で呻く。
「ご、ごめん‼悪かったっっ!」
「もう!謝んなくっていいよ!」
抱きしめていた力の強さはそのままで、和は今度は聡の両肩を掴み、上体を引き離す。
そして、聡を真上から見下ろし、堂どうと宣言をした。
「さっきのはノーカン――、無しだから」
顔を上げて、おそらくは「和・・・」と言おうとした聡の唇は、下りてきた和ので塞がれた。
和からされた『初めての』キスは、聡にとっては甘いあまいココアの味がした――。
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