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降りしきる雨の矢の中を
四月のはじまりの日は、あいにくの雨だった。
聡に借りた傘は手に持ち、自分のを差した和が、左隣を歩く聡を見て言う。
「――センセイってもしかして、雨男?」
和は、聡と身長差が10㎝以上もあるので、その視線は文字通りの上から目線だった。
和が本気なのは、ウンザリとした声の調子からも、聡に伝わった。
そんな迷信じみたことを信じているのか?イマドキの若者が?と聡は疑わししく思い、和を見上げる。
自分ではけして、背は低い方ではないと思っていた聡だったが、和には到底敵わない。
しかし、見下ろされている感じは全くなかったので、応じる声にもつい、笑いがにじんでしまった。
「それは和の方だろう?今日は和の誕生日だし。退院の日も雨だったじゃないか?」
「違うよ!たまたまだよ。たまたま!」
と、ムキになり答える和の顔は、昨日の午後十二時に十八才になったばかりに相応しいのになった。
今日、待ち合わせた駅の改札口には、地元の聡が先に着いた。
後から現れた和は、高校を卒業したので当然、私服姿だった。
聡は、退院の日に見て以来だったからかも知れない。
黒いロングコートを着た和の姿は十八才どころか、来月、二十四才になる自分と同じくらいか、下手をすれば年上にすら見えた。
その背の高さがなければパッと見、和とは分からない、すっかり大人の男の姿だった――。
それにしても、和には黒が似合うと、聡はしみじみと思った。暗くて地味には、少しも見えない。
高校の制服のブレザーがライトグレーだったから、全く気が付かなかった。
高い身長と、それに見合う体格とをしている和だったが、黒を着ていても威圧感はまるでなかった。
むしろ、人目を惹いた。
その時の、引き締まった男の顔にすぐに戻り、
「――それに、どうせ外に出ないからいいけど」
と言葉を続けた。
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