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そして、聡を真っすぐに見つめる。
「まぁ、そう、だな・・・」
和の強過ぎる視線から逃げるようして、聡は前を向いた。
しばらく黙って歩いてから、思い切って言う。
「――本当に、おれの部屋でいいのか?」
「いいよ」
聡は一応、和へとさらに念を押してみた。
「狭いぞ・・・?」
「知ってる」
「・・・・・・」
病院からも近い聡の部屋へと傘を取りに寄ったのは、和が退院した日だった。
その日から未だ、一ヶ月くらいしか経っていない。
ちなみに聡が住んでいるのは、単身者向けの、ごくありふれたワンルームのアパートだった。
実際に、狭かった。
しかし、和にそう言われてしまえばもう、聡としてはうなずくしか他にない。
例え、「じゃあセンセイ、他にどっか知ってんの?」と返す刀で和に問われたとしても、つい最近まで付き合っていた不倫相手との行きつけのラブホテルを上げるしかなかった。
それは、――それだけは、何としても避けたかった。
そんな聡の心など、全く知らないはずの和だったが、
「だって、イヤじゃん。初めてなのにラブホとか」
と、そのものズバリと核心を突いてきた。
「・・・・・・」
「あ、ゴメン――」
途端に神妙な面持ちになる和へと、聡は首を横に振り、白状した。
「・・・実はおれも、ああいう所は何だか落ち着かなくて、好きじゃなかった」
件のラブホテルは内外装共に、けしてけばけばしくなく、シティホテルとさほど変わりがなかった。
――しかも、男同士でも全く普通に、利用することが出来た。
それでも聡は、好きな相手と二人切りで会っている喜びよりも、いかにも不倫をしている罪悪感の方を強く感じてしまっていた。
結局は、最後まで好きになれないままだった。
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