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和が心底呆れて、つぶやく。
「白河医師にそう言えばよかったのに。・・・何で言わなかったんだよ?」
「言えないよ。そんなこと」
聡の、ごくあっさりとした返事に、和は嚙み付いてきた。
「どうして⁉付き合ってたんだろ⁉」
和の剣幕など、ものともしないで、聡はあくまでも平らかに告げる。
「じゃあ、もう会うのを止そうか?って言われるかも知れない思うと、怖かった。――それにおれの部屋は、病院と近いから」
実際には、白河医師こと、白河宗司郎はそんなことは言わなかっただろう。
聡が誘ったのならば、部屋にだって来たのかも知れない。
しかし、もしも万が一にでも病院の関係者に見られたらと、聡が勝手に思っていただけだった。
白河宗司郎は、聡が勤めているリハビリテーション病院の外科医で、つい最近まで、付き合っていた相手だった。
既に結婚をしていて、子供も一人だけだが、いた。
――聡はいわゆる、不倫相手だった。
そのことは聡自身も納得尽くで、付き合いを続けていた。
自分でも納得していると信じて、少しも疑わなかった。
左足首の骨折のリハビリのために転院してきた、高校生の斎藤和に出会うまでは――。
「・・・・・・」
和は黙って、前を向いた。
雨の中をしばらく歩いてから、不意に口を開いた。
「ネットで調べてみた」
「何を?」
「青少年育成条例。――難しくて、よく分かんなかったけど」
「そうか」
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