降りしきる雨の矢の中を

5/6
120人が本棚に入れています
本棚に追加
/78ページ
 和が、ゆったりとした口調で話し始めた。 「センセイさぁ、前におれのこと、頑張り屋さんだって言ったろ?」 「あ、あぁ・・・」  聡は、厳しいリハビリテーションに向き合っていた和を、常づねそう見做し、心密かにそう呼んでいた。 ――素直じゃないけど、本当は誰よりも、リハビリの頑張り屋さん。と。  和が退院した日には感極まって思わず、別れ際の駅の改札口で、そう叫んでしまったくらいだった。  思い掛けないこと言われて、聡は反射的に右を向いた。 左を向いていた和と、バッチリ目が合った。  和が少しだけ笑って、宣言する。 「ソレ、ソックリそのまま、センセイに返す。センセイの方がおれなんかよりも、ずっとずっと頑張り屋さんだよ。――仕事も、それ以外のことも」 「和・・・」  一転、笑いをすっかりと消して続ける。 「でも、そんなに頑張らなくていいと思う。おれはまだ、十八になったばかりのガキかも知れないけど――、センセイのこと、支えたいんだ」 「・・・支えるって?」  全く思い当たらずに、本気で首を傾げる聡へと、和は語り続ける。 「センセイ、リハビリの時、よく言ってたよね?何でも、どんな小さなことでも、自分に話せって。必ず力になるから、一緒に考えるからって。――おれが又、走れるようになるために、出来ることは何でもするからって」 「あ、あぁ」  そこまで言って、和はまた一気に笑った。 まるで花が一瞬で咲いたような、鮮やか笑顔だった。 「全然やる気がないおれのこと、グイグイと引っ張って行ってくれた。で、本当に走れるようにしてくれた」 「・・・・・・」
/78ページ

最初のコメントを投稿しよう!