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和が、ゆったりとした口調で話し始めた。
「センセイさぁ、前におれのこと、頑張り屋さんだって言ったろ?」
「あ、あぁ・・・」
聡は、厳しいリハビリテーションに向き合っていた和を、常づねそう見做し、心密かにそう呼んでいた。
――素直じゃないけど、本当は誰よりも、リハビリの頑張り屋さん。と。
和が退院した日には感極まって思わず、別れ際の駅の改札口で、そう叫んでしまったくらいだった。
思い掛けないこと言われて、聡は反射的に右を向いた。
左を向いていた和と、バッチリ目が合った。
和が少しだけ笑って、宣言する。
「ソレ、ソックリそのまま、センセイに返す。センセイの方がおれなんかよりも、ずっとずっと頑張り屋さんだよ。――仕事も、それ以外のことも」
「和・・・」
一転、笑いをすっかりと消して続ける。
「でも、そんなに頑張らなくていいと思う。おれはまだ、十八になったばかりのガキかも知れないけど――、センセイのこと、支えたいんだ」
「・・・支えるって?」
全く思い当たらずに、本気で首を傾げる聡へと、和は語り続ける。
「センセイ、リハビリの時、よく言ってたよね?何でも、どんな小さなことでも、自分に話せって。必ず力になるから、一緒に考えるからって。――おれが又、走れるようになるために、出来ることは何でもするからって」
「あ、あぁ」
そこまで言って、和はまた一気に笑った。
まるで花が一瞬で咲いたような、鮮やか笑顔だった。
「全然やる気がないおれのこと、グイグイと引っ張って行ってくれた。で、本当に走れるようにしてくれた」
「・・・・・・」
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