ホットココア リベンジ

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 しかし、和の手はすぐに離れた。 「和――?」  開けた聡の目に、顔を背けた和の姿が飛び込んできた。 よくよく見ると頬骨の辺りが、ほんの少しだけだが赤い。  聡から視線を逸らしたまま口元に手を当てて、和はボソリとつぶやいた。 「今キスしたら、止まんなくなると思う・・・」 「あ・・・」  改めて考えるまでもなく、ここは玄関先だった。 和はもちろんのこと、部屋の主の聡もまだ、靴を脱いでいない。 「と、とりあえず、上がって!」 「うん、じゃあ・・・お邪魔します」  傘立てなどという気が利いたものは、聡の部屋にはない。 和は、聡に借りたのと自分のと二本の傘を、玄関のドアへと立てかけた。  改めてグルリと、部屋の中を見渡す。 約一ヶ月前に訪れた時よりも、広く思えるのは和の気のせいだろうか? 何だか、がらんとさえして見える。 「和は、ココアだったよな?」 「あ、うん・・・」  聡はいそいそと言うよりは、逃げ出すかのように狭い一口コンロのキッチンへと立った。 その背中へと目を預けながら、和はコートを脱いだ。 「センセイ、ハンガーどこ?」 「ハンガーは――って、何でそんな格好しているんだ・・・?」  和へと振り返った聡は、思ったそのままをつぶやいてしまった。 和が黒いコートの下に着込んでいたのは、スーツの上下だった。  色はダークブルーだったが、濃過ぎず暗すぎない絶妙な色合いは、和によく似合っていた。  シャツはオフホワイトで、ネクタイは艶があるグレーの地に、青系の色が斜めに走っていた。  和が、コートを片手にそのネクタイを摘まみ上げ、自分の目の前で揺らしゆらし言う。 「大学の入学式用に、買ってもらった。似合ってるって自分では思うんだけど・・・」  全く自信がなく、まるで窺うような和へと、聡は心から断言した。 「似合っているよ、和。――すごい似合っている」 「本当に?白河医師(しらかわセンセイ)よりも?」 「え?あ、あぁ・・・」  どうしてそこで、和が白河の名前を出してくるのか、聡には分かった。 分かり過ぎていたから、真顔でうなずくだけにした。
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