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和の、嵐のようなティッシュペーパー攻撃が止んで、聡は思わず口の周りを舐めた。
湿らせた唇で、言う。
「甘い」
「は?」
「甘い味がする・・・」
さらに、独り言のようにつぶやき続けていた聡だったが、やがて、
「あ、そうか」
と納得した。
「ローションティッシュで拭いたからだ。あれって、保湿成分としてグリセリンが入っているから甘いんだよ」
「・・・・・・ふーん」
興味をそそられた和は、聡の唇をペロリと舐めた。
「⁉」
「全然甘くないけど?」
「そこまでハッキリとはしないよ。――食べてみるか?」
冗談でテッシュボックスを差し出す聡に和は、
「いいよ。ヤギじゃないんだし」
とすかさず応じた。
聡もまた、打てば響く速さで返す。
「ヤギは別に、紙が好物なわけじゃない。ただ草食動物だから、紙の原材料のセルロースを分解出来るというだけなんだ」
「・・・・・・ふーん」
そして、さらにダメ押しで、和にとどめを刺した。
「だから、動物園でヤギに紙をあげるのはよくない。けしてしてはダメだ」
「――やらないよ」
聡が真顔で繰り出すマジボケに付き合っているうちに、和は力が抜けてきた。
急に思い出したように、強い眠気が押し寄せてくる。
嚙み殺すことなく、大あくびをした。
「センセイ、チョット寝ていい?眠い」
「あぁ――」
かなり狭かったが、和はベッドから落ちるギリギリの端に体を横たえた。
仰向けになったために、額に落ちた前髪を聡はそっと指先で払った。
和は何か言いたげにチラッとだけ聡を見た。
しかし、その目はすぐに閉じられてしまった。
聡も和の隣に仰向けになり、目を閉じた――。
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