お題に沿った短編等

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【深夜の雨】 …月の見えない夜だった。 月の光は嫌いじゃなくて、でもこの暗闇も案外悪くもない。 やたらと夜目は利くから不安も無い。夏が近づくと言うのに、 なんだか寒い気もする。 家をふらりと出ては見たが、特に目的地がある訳では無い。 今はこうして居たい。 十四松は多分気付いてるな、と苦く思う。 ごめんね、片割れ。 でも、結局追って来ないから、 何となく安堵していた。 なんのことはない、だって気持ちが落ちてる訳でも無い。 だからあの弟は追って来ないのだろうし、俺も望んでない。 ふと、空を見上げると、 雲が厚くなった気がしたが、別段構いはしないだろう。 俺は雨は苦手だが嫌いじゃないし、 今日は何故だか降られても構わないと不思議と思えたのだ。 こうして、夜中に散歩に出る事は、 偶にある事で、落ち込むと余計に頻繁になるのだが、 何故か今しがたは落ちてる訳では無い。 頻繁に夜中に抜け出す様な精神状態ならば、十四松は追って来るのだから、 間違いない。 人通りも、ほぼ無いな、と考えていたら ぽつりぽつりと雨が降り出した。 完全に月は確認出来ないが、 まあ、夜目が効くから困りもしない。 人通りが無くて助かった。 雨の中慌てもせずに、ゆっくりと散歩してるヤツなんかは多分居ないだろうし。 怪しいのに間違いないだろうから。 まあ、普段から怪しいのだろうけど。 適当に公園に入って見た。 矢張り誰も居ない。 騒がしいのは好まないから好都合だった。 しとしと降る雨を見ていると、泣いている様な気がして慰めたくなる。 慰めなんか、慣れてないし、出来はしないのだけど。 嗚呼、二番目の兄ならば何が上手い事を言うかも知れないな、と考えてから、舌打ちをした。 癖である。口には出さずに雨に謝罪なんかをしてしまった。 慰めたくなって舌打ちするヤツは恐らく自分だけだ。 ご愁傷様ですね、と毒吐いて、 自分を濡らして行く雨を気にもとめずに、 好きな歌なんかを口ずさむ。 多分兄弟も知らないだろうね、特別だよ、と雨に慰めの子守唄をベンチに座って歌う。 何となく、ロマンチックだが、相手は雨であるからに彼らしいのだ。 家で歌う事も無いお気に入りの歌を此処で歌うのを赦されたのがなんだか嬉しくて、 見えない月を見上げて歌った。 嗚呼、そうだね。 俺は赦されたかったのかも知れない。 ゆっくり歌いながらも、そんな事をぼんやりと考えて居ると合唱するかの様に雨音が混じって気持ちがいい。 気の済む迄歌ったら帰ろう、多分弟がタオルを用意してるだろうし。 本当によくわかんないけど、彼は自分の片割れだった。 多分これからも。 何回ループしたかなと思い 顔を上げると、光が目に入る。 ほの優しい月光そのものである。 俺を笑い飛ばして行ったかの様に いつの間にか雨は上がって居た。
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