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勘解由小路の寝室の前は厚い氷で覆われていた。
涼白さんは、扉の前に手を当てた。
扉を囲う氷だけが砕けて散った。
「お急ぎください莉里様。1分しか開けていられません。それ以上経つと氷全体が砕けてご主人様の遺体が保存出来なくなります」
「解ったのよさ!急ぐのよさ!」
莉里は勘解由小路の寝室に飛び込んでいった。
部屋を囲うように設置された棚には大量のアナログ盤とCDが仕舞われている。
ベッドには勘解由小路が仰向けで眠るように。室内は異様に寒い。
枕元には何もない。
「見つからんのよさ!パパ!何を隠してるのよさ!」
莉里が喚き、氷がひび割れようとした時、背後から声があった。
「ベッド脇のサイドボードの奥にございます。ぼっちゃまがお小さい頃から、それだけは捨てられなかったのでございます。実を結ぶこともなく、大きくなることもなかった植物の鉢植えがそこにございます」
「え?ーートキなのよさ?」
「お早く!もう時間がございません!」
斬りつけるように言われて、莉里は慌ててサイドボードを開いた。
中には雑多なガラクタが、怪しい霊気を孕んでいた。
イシカホノリな骨偶の後ろに鉢を発見した。引っ掴んで莉里は寝室を飛び出した。
涼白さんが改めて寝室を氷で閉ざし、力尽きて正男の腕に抱えられた。
ああ涼白さん。お腹に赤ちゃんいるのに頑張ったのよさ。
莉里は、8人兄妹と楽しく遊びたいのよさ。
「四つ児ちゃんが楽しみなのよさ。涼白さん大好きなのよさ。正男。8人の子供大変だけどうちが面倒見るのよさ。父親として頑張るのよさ」
「うえ?マジか?四つ児?」
「恐らく莉里様が発見した物がそうでございましょう。居間でお休みください。興津!根来!莉里様をお労わり遊ばせ!よろしければトキが負ぶってお運びいたします。坊っちゃまと奥様のご帰還は、莉里様の双肩にかかっているのですから」
トキの霊気はどこまでも漲って見えた。
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