祓魔課は平穏な空の下で

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祓魔課は平穏な空の下で

 表面上起きたことは、都内に起きた不可解な出来事であり、それが晴らされ、とりあえず平穏な日常が取り戻されていた。クリステラ・エルネストという幼女が瞬間移動で志保達を連れてきた時は号泣しそうではあった。 涙を堪えて島原は言った。 「解決するタイミングはおかしかったが、都民は守ることは出来た。本来なら、勘解由小路の勝利と東京を覆う壁の解除は同じタイミングで起きると思ったが」 「流紫降君が頑張ったみたい。勘解由小路のおじさんはどうなったのかな?」 真帆はそう呟いた。 「さっき君達が話した件が事実だとすると、あいつは今地獄にいるらしい。我々が欲しいのは情報だ。あいつを支援する方法があれば」 「そんなもの気にすることはない。パパは必ず帰ってくる。パパの問答無用な斬獲はまだ始まったばかりだ。そうだなクリ子」 「そうねー。私のパパは今何してるのかしら?」 クリステラが首をひねっていると、別の幼児が女と現れた。 「莉里!」 声をあげたのは(ジャスパー)だった。莉里は、姉の胸に飛び込んで、静かに泣いた。 「ガイアーーじゃないわね?誰?転移魔法だけじゃない、魔力探査魔法。この精度は賢者アレハンドロ以上ね」 「貴女が王女ね。私はヘル。地獄の統括者よ」 ヘルーーだと?島原は驚きの声を上げた。今ちょうど、地獄にいる勘解由小路のことを話していたのだった。 「神ヘルに問いたい。勘解由小路という男に何があったかご存知だろうか?」 「彼に何があったか。その子が知っているわ。喋る気力があるならば」 莉里は碧から顔を上げて、声を詰まらせて言った。 「姉ちゃん。姉ーーちゃん、ママが、パパは無事だったけどママが。今度はママが。で、でもパパは、ママを連れて帰るって約束してくれたのよさ。でなーーいと、悲しすぎるのーーよさ」 碧は強く妹を抱きしめた。 「当たり前だ。パパを信じろ。今まで、一度だって約束を破ったことはない。有言実行の男がパパだ」 ぎゅっと強く顔を姉の胸に埋め、莉里は強く頷いた。 「うん。莉里は、パパもママも信じてるのよさ」 勘解由小路の娘達がそれで纏まってしまうと、余人に口を挟む余地を与えなかった。 代わって、ヘルはこう言った。 「彼は、失われたものを求めて、今は冥界を進んでいるはずよ。すぐに戻って地獄から冥界の入り口に送らないと。既に地獄にいた彼の僕は平らげてしまいそうだし。前に会った時から感じていたけど、地獄すら彼の終の住み処になり得なかった。地獄の安定の為に、彼を追い出さざるを得ないのよ。本当に非常識な男」 地獄の女神にここまで言われるとは。あいつらしい。新たな二つ名は地獄を追い出された男。 「そうか。私は警察庁祓魔課長の島原雪次という者だ。どうか、勘解由小路降魔を、あいつの奥さんをよろしく頼む。そして伝言がある。どうか帰ってきてくれ。死程度でお前が終わるはずがない。お前の帰還を望まない人間は、口惜しいし残念ながら、一人もいないのだ。何故か。とっとと帰ってきて禍女の皇を斬獲してこいと」 ヘルは頷き、姿を消した。 島原は、一堂に会した全職員関係者にこう告げた。 「我々の最強戦力!勘解由小路降魔特S級祓魔官と、勘解由小路真琴S級祓魔官は、孤独な戦いを今も続けている!我々は誰一人欠けることなく、あいつ等の帰還の為の助力支援を行い続けていく!敵首魁たる禍女の皇、及び羅吽は今も姿を眩ませている!必ずそれ等敵性妖魅を発見し、祓魔していく!総員かかる脅威に備え、第一級配備の継続と、霊視を開始する!必ず見付け出せ!命を捨てて我々の命を守った自衛官各意と準級祓魔官の犠牲を無駄にするな!解散!それぞれのセクションは順次報告!一つも無駄にするな!この世界に無駄な情報など一つもない!」 改めて警察庁祓魔課は動き出した。協力者は異世界の王女と赤ん坊だが、戦力としては十分すぎた。 あとは、禍女の皇の攻勢がまだ残存しているのか。それだけだった。 「ちょっと!そこの魔法剣士!私が誰か知っているわね?!あんたは誰で何してるの?!報告しなさい!」 背後で、王女がそう叫んだのが聞こえた。 勘解由小路を欠いていても、我々は必ず勝利する。その為に、我が国は霊的防衛に傾注してきたのではないのか。 島原の胸に熱い闘志がみなぎり、脳は物凄い速さで回転していった。 連絡し、協調する相手は誰か。島原は既にあたりをつけていた。 ところで、気を落ち着かせた莉里が姉に問うた。 「姉ちゃん、兄ちゃんはどこに行ったのよさ?クティーラと涼白さんは?」 「あー。流紫降はだな。多分今頃あれだ。まあ生きてるから心配するな。マジギレ中で誰にも会いたくないんだろう。クティーラはお前に置いてけぼりにされて海に帰っていった。涼白はだな、身重で働かせる訳にはいかんだろうが。家で安静にしている」 「あん?」 莉里は、なんとも形容しがたい顔でそう言った。
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