宿敵

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宿敵

 何とか改札を通り過ぎたが、ホームまではエスカレーターを登らなければいけなかった。どうしてこんな時に限ってエレベーターが故障しているのかと、またイライラした。  電車は相変わらず混み合っていた。見渡す限り空いている席はなかった。代わりに私はあいつを見つけた。  あいつは我が物顔で席に座り、英単語帳を眺めていた。私だって単語の小テストのために勉強したいのに、立っているのがやっとでとても勉強などできなかった。  暫くすると、あいつは単語帳を閉じて傍にいる友達と楽しそうに話し始めた。その笑い声が私を余計に苛立たせた。あいつの前にいた坊主頭の男子が両指を鼻に突っ込んで意図的に不細工な顔を作った。私には理解できない行動だった。  坊主頭の隣に座っていた別の坊主頭が手を叩いて笑っていた。それを見て、あいつも楽しそうに笑っていた。その笑顔が不愉快だった。ついでに言うと、あいつの頭も坊主だ。私は坊主頭が嫌いだった。  電車は学校の最寄駅に到着した。ゆっくりとしか進めない私を邪魔者扱いするように、何人もの人が足早に追い越していった。その背中を私は睨んだ。世の中、薄情な人間ばかりだ。  ふと斜め前方にあいつの姿があった。あいつは自分の荷物を友達に持たせて、颯爽とホームの奥へ進んでいく。自分の荷物くらい自分で持てばいいのにと、私は心の中で悪態をついた。もちろん私は自分の荷物を誰かに持たせるなんてことはしなかった。だから肩から何度も鞄が滑り落ちてきて、その度に立ち止まらなければいけなかった。
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