宿敵

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 あいつを敵対視するようになったのは1週間前だ。  その前日、私は寝坊した。飛び起きた私は朝食も食べずに家を飛び出した。これまで一度も学校を休んだことのない私が遅刻するわけにはいかなかった。何としても皆勤賞を死守する必要があった。  エレベーターは1階で止まったまま動く気配がなかった。4階にいた私は、エレベーターを待つよりも階段を使った方が速いと判断した。この判断が間違いだった。  私は一段飛ばしで、階段を駆け下りた。我ながらスピードに乗った良い走りだったように思う。しかし次の瞬間、私の視界はぐらりと回り、体は宙に投げ出された。そして、着地と同時に『バキッ』という音がしたことは覚えている。  転けたのだと分かった直後、激しい痛みが襲ってきた。私は左足を抑えて痛みが去るのを待ったが、痛みが引くことはなく、むしろ益々酷くなるいっぽうだった。  母に知らせなければと思った私は、必死にケンケンで階段を上っていき、なんとか4階の自宅に辿り着いた。  母に事情を説明すると、すぐに車で近くの整形外科病院へ連れて行かれた。 「あー、折れてますね」  医者の口ぶりは、『雨が降ってますね』とか『お腹すきましたね』と同程度に軽々しいものだった。見せられたレントゲン写真によると、足の腓骨という骨が折れているらしかった。手術は必要ないらしいが、左足をギプスで固定され、暫くは左足をついてはいけないと言われた。  その日から、私の松葉杖生活が始まった。  
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