宿敵

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 片足しかつけないというのは想像以上に苦しかった。両手には松葉杖を持っているため、手を自由に使えないのも不便極まりない。  次の日、私は松葉杖を両手に登校していた。駅までは母に送ってもらったが、そこからは自分の力で行かなければならない。  改札を通過するのも一苦労だった。改札の幅は松葉杖で通るには狭く、また定期を機械にタッチするには片手を杖から離す必要があったが、これが難しかった。  戸惑っていると、後ろにいたサラリーマンが舌打ちをして隣の改札に移動していくのが見えた。私は酷く打ちのめされた気分になった。  電車に乗ってからも至難の連続だった。通学時間の電車は学生や会社員で溢れており、座席に座れることは殆どなかった。私は松葉杖を必死に握りしめて、電車の揺れに耐えていた。両足をつけるときは何でもなかったはずの電車の揺れが、今の私にはとても大きな揺れに思えた。  私は誰か座席を譲ってくれないかと席を見渡した。しかし、誰一人私に席を譲ろうとする人はいなかった。座っている人たちはスマホの画面を眺めているか、眠っているかのどちらかだったが、私に気づいている人はいなかった。
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