押し付けてこないで

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押し付けてこないで

 ある庭に、ふわっとしたワンピースを纏った少女。もう一人の少女と向かい合う形で立っている。 「あー!! もう大っ嫌い!!!」  突然、大声が響き渡った。そして、木に止まっていた烏が慌てて飛び去っていった。  動きづらい服。ワンピースは嫌だって何度も言った。よく従姉妹のお下がりをもらう私であるが、スカート系のものは着たくない。だが、経済的に楽だからと母は聞き入れてはくれなかった。  従姉妹は女の子らしく、the女の子って感じの服を着ている。スカートを着るのが好きな従姉妹。下にはくものは、ほとんどスカートである。そのため、もらうものはスカートが多かった。私の身長と従姉妹の身長が、近くなければお下がりなんてものはなかっただろう。だが、私は一四〇センチ、従姉妹は一四二センチらしく、着る服には問題ないのであった。  従姉妹も人が悪いのだ。私がスカートを嫌っているのに、強引にスカートを穿かせようとしてくる。  こんなことがあった。  ある日、従姉妹の家にお邪魔した。従姉妹は母親と一緒に私たちを出迎える。母親同士お話をし、私は従姉妹に誘われ、彼女の部屋で遊ぶことになった。 「ユリちゃん。また、今日もズボンなの?」 「うん! この前、お母さんが買ってくれた」 「嬉しそうにしちゃダメ!! ユリちゃんは、スカートをはくべきなの! もっと女の子らしくして!」  少しずつ私に近寄ってくる従姉妹。嫌な予感がして、逃げようとした。だが、それを予測していたのか、私は彼女に捕まる。そして、無理矢理ズボンを脱がされた。私は諦めずにズボンを穿いて逃げようとしたが、彼女の手によって遠くへ投げられる。上にシャツを着ているもののパンツ姿で恥ずかしかった。私はその姿を隠そうと、座り込む。 「なんで、こんなことするの!」 「なんでって、ユリちゃんが着るのはスカートやワンピースの方が似合ってるもん」 「別に私が着るものは……」  ごそごそとクローゼットの中を漁りだした従姉妹。そんなことをするより、人の話を聞いて欲しい。 「ちょっと! ミユキちゃん! 人の話を聞いてよ!!」 「あった! このピンクのスカート穿いてよ! 私とお揃いなの」  逃げようとしても逃げられない。私は、従姉妹に渡されたスカートを泣く泣く穿いた。パンツ姿が恥ずかしかったので、仕方なくだ。あとで、部屋の隅の方へ投げられたズボンを取り、穿けばいいだけだ、と自分に言い聞かせた。 「ふふふ、今日一日はずっとそのままでいてね!」  上機嫌の従姉妹は、部屋に放り出されたズボンを取り、走ってどこかへ消えていく。突然のことで、ポカンっとしてしまった私。後に、従姉妹を止めなかったことに後悔する。 「あのね〜、ユリちゃんがお漏らししちゃったみたいなの〜」  従姉妹の嘘である。これに騙された両母親の誤解を解くのに、大変な思いをした。 従姉妹は、あのズボンを濡らしたらしい。それを両母親に見せたようだ。あのニヤリと笑い、悪意を浮かべた表情に、苛立ったのを覚えている。  従姉妹は私に対して、とても意地悪だ。からかいがいがあるやつとでも思っているのだろう。それに振り回される私も私である。また、従姉妹は私の服装を決めるのが好きらしく、服を選んでくる。それは、私にまわってくるスカートやワンピースのことでもあった。  私に着て欲しいものを買っている、という情報も従姉妹の口から聞いた。とても迷惑なものである。服くらい好きに決めさせて欲しいと何度も思った。  本日は従姉妹が家に来た。紙袋に一着のワンピースを入れて……。案の定、私はそのワンピースを無理矢理着せられた。そして、私はそれを着て庭にいた。 「二人で鬼ごっこしよう!」  そう言った従姉妹。私が着ているのは、ワンピースだ。そんなに、この姿で動きたくない。 「ねえ、やめようよ。私、ワンピースで動きづらいから」 「ふ〜ん、大丈夫だよ。私は、ズボン穿いてるから」  従姉妹の話を聞き、彼女を見たときから感じていた違和感に、私はようやく気づく。従姉妹がズボンを穿いていた。 「ズボン!!」 「うん、だからこれで鬼ごっこできるね!」  私はワンピースなのに、何が「鬼ごっこできるね」だ。無理矢理ワンピースを着せたくせに、自分はちゃっかりと動きやすい服している。それが、とてもムカついた。人のことも考えて、と言いたい。 「ユリちゃん、どうしたの?」  ニヤニヤと私を見てくる従姉妹。面白がっていると分かる。このムカつく状況に、大声をあげずにはいられなかった。 「あー!! もう大っ嫌い!!!」  バサバサと鳥が逃げていった。私は、それを無視し、従姉妹を睨みつけた。  私は従姉妹のことが好きではない。私の服を決めてくるし、人のことをからかって、遊んで面白がる。そういうところが嫌い。私にとって従姉妹はとっても嫌なやつ。でも、こんな従姉妹でも頼りになるときは頼りになる。その頼りになるところは、話さないことにする。  従姉妹を好きか聞かれたら、迷わずに嫌いと言えるだろう。たまに、勇ましい態度で助けられることがあっても、印象はマイナスのまま。なぜなら、好きよりも嫌いの割合の方が大きいからである。  大きくなったら、お金を貯めて、自分で服を買うことにしよう。従姉妹に邪魔されるとも思わない私は、未来に思いを馳せる。
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