かき氷とかアイスを食べた時のアレ

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かき氷とかアイスを食べた時のアレ

みんなは経験したことがあるだろうか? かき氷やアイスを食べている時になる、アレ。頭がキーンと痛くなるやつ。多分、結構な数の人がその痛みに差はあれど、経験済みだと思う。 アレは喉にある神経が『冷たい』と『痛い』を勘違いして脳に誤情報を伝達する説と、冷えた口の中を温めようとして血液量を増やし、その結果として頭に繋がる血管が膨張するからという二つの説があり、そのどちらか、あるいは両方が起因して起こるとされている。 その名もアイスクリーム頭痛。 なんだよそのまんまじゃねーか。これ名付けたの小学生か? 真面目に仕事しろよ。なんて思いたい気持ちも分かるが、思うだけにしておこう。医学的正式名なんだから、仕方がない。 ともあれ、そのアイスクリーム頭痛とやらに俺は生まれてこの方なったことがない。そんな俺は多分、かき氷大食い選手権とかに向いている。あるのか知らないけど。それでも俺がそうなっていないのは、全部、知覚過敏のせいだ。 八月某日。地元の夏祭りに彼女と二人で来ていた俺は、手に山盛りのかき氷の入った発泡スチロールでできたカップを持っている。シロップは、レモン。 彼女の香織は今トイレに行っている。この人の多さだ、当分は戻って来そうにない。 ただ待つのも暇なので俺は適当に祭りの情景なんかを眺めながら歩く。すると、去年のこととかが自動的にフラッシュバックする。一年に一回のこの祭りに、去年は詩音と来てたっけな。とかこの祭りの最中に振ったんだっけな。とか。やけに束縛の強い女だった。 気がつくと、さっきまで騒がしかった人の声や雑音がなくなっていた。随分と上の方まで来ていたらしい。もともと、山の方でやってる祭りだから、ここまで上に来ると人けがまるでない。 引き返そうか考えたけど、さっきと打って変わって驚くほどに静かなこの場所に、もう少しだけ居たかった。丁度よさそうな石に腰掛けて、手に持っていたかき氷を食べる。ひんやり冷たい夏の風物詩。ちょっと溶け出していたので、かき込むように食べた。 ガサガサ。 後ろの方で物音がしたけど、特に気にしない。祭りの様子が見下ろせるほど山の上まで来たのだ。動物の一匹や二匹、いてもおかしくはない。 ッ!!!! 突然だった。俺の頭に激痛が走った。急になんだよ、と思ったけど、あ、これがあのかき氷とかアイスを食べた時のアレか? と思った。人生初の体験。ははっ、とつい笑いがこぼれた。名前はなんだっけ、ええと……そうだアイスクリー どさっ。 そう音を立てて、俺の体は前に倒れた。二回目の鈍痛が頭に響いた。しかも、そこは後頭部。こめかみとかじゃない。みんなの話と、違……う…………。 「そんなに嬉しい?」 俺の座っていたすぐ背後の茂みから、声が聞こえた。 「私も嬉しいよ。だって、あなたに復讐できるんだもの」 「だ、れ……だ……」 雲に隠れていた月が姿を現し、その月光がそいつの顔を照らす。やがて、全身を照らし出す。 「し、おん……?」 月明かりによって現れたそいつは、詩音だった。手には人を殴りやすそうなサイズの、石を持っていた。赤い液体が滴っている。血だ。 「なん……で……こんな、こと……」 俺は自分がその石で頭をかち割られたのだと、その時、初めて気づいた。 「どうして、って? 分からない? 復讐よ。去年私を振ったあなたへのね」 「こーへ〜、どこなのー?」 俺が来た方から、俺を呼ぶ香織の声が聞こえた。 「次は、あの女」 薄気味悪く、詩音が嗤った。 ーー月が再び雲に覆われ、辺りが闇に包まれた。それからもう一度だけ、硬い石と何かを思いっきりぶつけたような音が、人で賑わう祭り会場の少し上の山奥に、木霊した。 三人がどうなったかは、月も知らない。
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