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私はどうしてこんなところにいるんだろう。
うんざりとしながら私は人と人の間に挟まれ続けている。
この先に何が待っているかと言えばまた人と人だ。
そして電車が動き、私はいつものように運搬される。
人と人の間に挟まり、自他の境界など存在しないかのような思いを味わいながら私は電車に揺られる。
人と人は支え合って生きているなどと言った人間は満員電車を経験したことがないに決まっている。
何が支え合っているだ。こんなのは己れと己れをぶつけ合っているだけだ。
クールビズとかいう制度のせいでさらけ出された二の腕と二の腕が触れあう。
べちゃりとした感触が気持ち悪い。
私はどうしてこんなところにいるんだろう。
もう一度そう思ったとき、電車は止まった。
私は人と人の間を無理矢理進んで車両の外に出る。
待っているのはまた人と人だ。
もはや自分が足を動かす必要などないのではないかと思うくらいの人の勢いに流されながら私は駅の外を目指す。
駅の外もまた人と人でごった返している。
目当ての場所に行き着くために私は人波に流されながらも足取りをしっかりするよう努める。
その時、私たちの間を風が吹いた。
まるでそう錯覚するような景色だった。
一人の少女、近くの高校の制服を着た少女が軽やかに駆けていく。
人と人の間を縫うように、決してぶつからないように、踊るように、風のように、彼女は走り抜けて行く。
人と人の間に彼女はいない。
彼女はただ彼女の場所にいる。
うらやましい。
私は瞬間的にそう思っていた。
人と人の間に挟まれ流されることも忘れて、立ち止まって彼女を見送った。
次の瞬間、私は人にぶつかられてつんのめって、また人と人の間に入り込んだ。
彼女の姿はもう見えなくなっていた。
私にしか見えていない幻のようだった。
私はどうしてこんなところにいるんだろう。
今や私にはその答えがあった。
私はあの子を目撃するためにここにいたのだ。
そう確信を持ちながら私はまた人と人の間に挟まり、流されるように目的地にたどり着いた。
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