王宮発掘。

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王宮発掘。

 今日の達見場所は中央アジアの西の隅を占める地域。  世界最古にして最初の高度な文明のとされるメソポタミアはシュメール文明が、かつて雄大に存在していた土地がある。 そう、ここは現在の中東地域。  この広大な砂漠地帯に紀元前2900年ころから3000年ころ。  どこからともなく突如としてやって来た古代人たちは、この地で文明の花びらを一挙に咲かせるという不思議な現象を引き起こした。これは人類の歴史上に於いて、現在まで世界中で通じる文字の原型を発案し、また文化的政治的軍事的な足跡を書物として芸術として残しつつ、ウルク、ウンマ、ラガシュなどに代表される神聖都市国家を各地に建設し勇名を馳せた偉大な人類。    のちの時代に同地に現れ新都市アガデを建設、強大なアッカド帝国を打ち立てたアッカド人によって、【シュメール地方の人】という抽象的な呼び方で言い表されたシュメール人たちは、やがて時代を経てこの有能すぎる古代人を言い表す言葉となり、そして一旦はシュメール全土を統一するような王が現れたものの、それも一代でおわりを迎える。  なぜならば、隣国であり強大化していたアッカド帝国に征服され同化され歴史から消えさっていくという数奇な運命をたどるからであった。  今回は教科書でもおなじみの古代文明の代表格の人々である彼ら、謎の民族シュメール人の足跡を探検する…。 『お話ではありません!今回はこのシュメール人やアッカド人とは違う!今世紀最大の発見になるかもしれない!壮大な王宮都市を建設した謎の古代文明を特集します!!』    リポーターの女性がナレーションの音声を遮り、ドローンが上空から撮影を行う中東の平原で両手をカメラに向かって大きく振り、今回の番組のテーマを発表した。  そしてOP。 〖地球のふしぎ達見!!〗  今回の達見場所は中央アジア【コレ・カッル王宮遺跡】  先年、コレ・カッラ高地のくぼんだ平原中央にあった湖の水が抜け干上がったことで、宇宙からの一枚の写真から発見された古代遺跡は、なんとシュメール文明発生とほぼ同時期か、もしくはそれより数百年以上前に誕生したのではないかと見られる空中王国。  この建設された当時も今も、ほとんど人も行き交わない中央アジアの高地にポツンと存在する巨大な遺跡、いったいだれがどのようにして王宮都市を作り上げたのか、遺跡の発見から間もないためこれらはすべて謎となっている。  では、誰がこの王宮遺跡を発見したのであろうか? 『それは日本人の一人の青年でした!彼は、あの空の彼方に浮かぶ人工衛星から撮られた一枚の画像に注目したのです!!』  発見したのは日本人の二十代の青年【阿部敦】さん。 「彼は趣味で【ググれ・EARTH】という全地球観測システムを使い、日々、衛星から撮影されバーチャル化された地球上の景色を眺め、どこか変わったところはないか観察していたアマチュア観測者のひとりでした!」  そうして三年前、この人も通わぬ窪地に文明の痕跡を発見したのだ。  ナレーションの音声のあと場面は変わり、リポーターの、長くサラサラの髪を頭の後ろで結わえた女性がクレーターみたいに草原にぽっかり空いた窪地の縁に足を進めます。 「彼が発見したのは、まさに今発掘作業が進められているあの【王宮】の独特な形をした尖塔(せんとう)部分だったのです!!」  カメラの視線が窪地の中央に移る。移したさきには四角く区分された王宮跡と考えられている日干し煉瓦造りの半ば崩壊しかけた遺跡が映し出された。 「この王宮はとある植物の繊維を利用して、非常に固い日干し煉瓦でつくられています!それはここの平原に今でも自生してるあの植物なんです!」  カメラがパンしてアップにした植物は、一粒小麦の群生地だった。  一粒小麦はコーカサス地方からメソポタミアに至るまで広く分布していた野生の小麦で、現在の栽培品種である各種小麦の原種とされる小麦である。  現在の小麦は、交雑を重ねて風などの外部からの障害を受けても容易に実が落ちない殻の柔らかい六粒小麦(六条小麦)が主流であるが、この一粒小麦は本来野生種であり、その栽培は一万五千年ころから始められたものの、風などの障害を受けると容易に落穂し、しかも実を包む殻も固い穀物であった。  もちろん、さほどの技術が無くても栽培できる品種であるため、古代人たちは肥沃なメソポタミアの土地を利用して食料の安定供給に務めるにあたり、この一粒小麦を栽培し、やがてはより収穫量の多い交雑種・二粒小麦(二条小麦)に移行していき食糧生産の上がり人口の増大を受け入れることが出来た文明は、その発展度はさらに増していくこととなる。 「この一粒小麦を収穫した際に出る〝わら束〟を一定量含ませた土を使って足で踏み固め、四角く成形したものを日干しにして、しかもそれを何度も砕きまた固めるを繰り返してできた日干し煉瓦を積み重ねることで、湖水に長期間の浸かりながらも耐える非常に強度性の高い建造物を作り上げたモノと考えられています!!すごい技術力ですよね!!」  この日干し煉瓦は、現在発見されているメソポタミアの古代遺跡には見られない植物繊維が細かく入り交じった強固で複雑な構造をしている。  まさに世紀の発見なのだ。      
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