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平日の朝、忍者さんの姿を見ることが当たり前になっていた僕はちょっと残念な気持ちで一日を過ごした。
学校が終わってユウジに誘われて駅の近くのゲームセンターに寄り道をした。
ユウジはクレーンゲームが好きで、しかも上手い。欲しい景品があれば早くて1発、苦戦しても5回以内。僕もクレーンゲームは好きだけど実力は下手すぎもいいとこで、ユウジの才能が羨ましくもある。
「案外、帰りの電車で会ったりしてな」
ユウジが不細工なうさぎのキーホルダーを取りながらからかうように言ってきた。
「何が?」
「忍者さんだよ」
「それはないよ」
「なんで?」
「帰りに会ったことないし」
「会うかもしんないじゃん」
「どうだか」
若干投げやりに返してしまった。ユウジは気にしてなかったようで、
「ま、もしかしたらなんて事があるかもしれんし、頑張れよ」
と、僕にたった今取れた不細工なうさぎのキーホルダーを渡してきた。ころんとした手のひらサイズで頭のてっぺんにボールチェーンがついている。
「やるよ」
「いらないよ。彼女にあげればいいじゃん」
「こないだ別れた」
「え、ほんとに?」
「振られた。デートするのにどこでもいいって言うからゲーセンにしただけで。女ってわかんねーや。行きたいとこあんなら言えっての」
「……そっか」
「おう。そろそろ帰るか。それ、やるから」
「いらないって」
「俺もいらん」
「なんで取ったんだよ」
駅でユウジと別れて、電車を待っている時、僕は忍者さんの事を考えた。今日はどうしていなかったんだろう。忍者さんって何をしている人なんだろう。彼女は恋人はいるんだろうか。デートするならどんな所が好きなんだろう。……僕はいつの間にか忍者さんの事が気になっていた。
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