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バンド&ベーコン(中学一年生、春)
点加は中学生になったら人気者になると決めていた。点加にとって人気者というのは、一人でも多くの人間に好かれ、愛される存在のことだった。点加は自分にはその素質があると信じていた。自分の心は誰よりも美しく、純粋であると信じて疑わなかった。これからの自分の人生というのは、その美しさを一人でも多くの人間に知ってもらうための旅路のようなものと思っていた。
振り返れば、食べきれない給食を一人で泣きながら食べ続けた小学校の1年目から、生き物委員会の副委員長として兎のうんこを孤独に片付け続けた6年生の終わりまで、どちらかというと陰気で卑しい、地味な学生生活であった。さらにその前を振り返れば、砂場に埋められたり、男の子に後ろから蹴り飛ばされたり、アブラムシしか話し相手のいなかった悲劇的な園児時代が、昨日のことのように思い出された。
点加はしかし、だからといって、自分の心の美しさに気づけなかった周囲の友人や先生を憎んだり、蔑んだりするつもりはなかった。そんなやり方は点加の美学に反していたし、自分の心を貶めるだけだった。その代わりに点加は、兎の糞掃除を押し付けた委員長や、糞掃除のせいで朝の会に遅れたことを叱りつけた先生や、ゲームのコントローラーを手汗でびしょ濡れにしてしまったからと言う理由で点加を仲間外れにした女の子たちを、ただ気の毒に思うだけだった。そう、彼らは自分よりも愚かな心の持ち主だったという、たったそれだけのことなのだ。
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