バナナ&ドーナツ(高校三年生、秋)

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「ああ、恋がしたい恋がしたい、恋がしたい恋がしたいな!」  点加の隣で呪文のように呟くのは、今年に入ってから一緒に登校するようになった、同じクラスの鈴である。彼女は中学二年の時に同じクラスだった生徒で、かつては点加が好きな先生との小説を書き下ろししてあげていた相手でもあった。  鈴はギャル達に「後ろ姿美人」と陰で呼ばれていた。それは確かに的をえた呼び名であった。鈴は後ろから見ると美人であった。肩まで伸びたサラサラの明るい色の髪。適度な肉付きに、程よい背の高さ。しかし正面からみた鈴は意地悪狸のような顔をしていて、とても美人とは言えなかった。  そんな鈴は毎朝のように、恋についての話を、点加へ向かって、滔々と語り続けるのだった。 「ねえ、もったいないと思わない?うちらって、女としての一番大事な6年間を、ドブに捨てたようなもんなんだよ。テンカがくだらないことを言ってる間に、共学の子らは彼氏と下校デートしたりして、青春を満喫してたんだよ?それについてどう思うよ?あーっ、なんで誰もわかってくんないかなあ!違う、大学に入ってからじゃ手遅れなんだよお、今じゃなきゃだめなんだよ。今しかできない恋愛ってのがあるんだよ…テンカもさ、大学入ったらきっと変わっちゃうよ。男の味を知ってさ…テンカみたいな純粋な子は特に危ないよ。悪い男に騙されたりしないでね、ほんと」    点加は繰り返される鈴のそんな話を、話半分に聞いていた。まともに受け合う価値のある話のようにはとても思えなかった。鈴はただ、そういった方面に疎い点加に対して自分の知見をひけらかしたがっているだけのように見えなくもなかった。
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