バンド&ベーコン(中学一年生、春)

39/49
前へ
/241ページ
次へ
本番が直前に迫っていた。点加たちはトップバッターであった。出番の直前、突如青山さんが思い立ったように点加の周りの機器を入念に点検しはじめた。出来の悪い子供の遠足の持ち物を点検する母親のような態度で、一つ一つ、慎重に確かめていった。弦はしっかり張られているか。アンプからちゃんと音が出るか。チューニングは合っているか。  そして最後に点加に向かって、「大丈夫だね?」と言った。「やれるよね?」   点加は力強くうなづいた。この時ほど青山さんを優しく、頼もしく感じたことはなかった。そして青山さんを頼もしく思うあまり、点加は自分ではなんの点検もしなかった。仮に青山さんがやってくれなかったとしても、緊張のあまり、まともな点検はできなかったに違いなかった。そうしてとうとう、点加のバンドの名前が呼ばれた。 「トップバッターは『ベーコンズ』です!どうぞ!」  点加たちは、まばゆい光の中へ進み出た。
/241ページ

最初のコメントを投稿しよう!

17人が本棚に入れています
本棚に追加