バンド&ベーコン(中学一年生、春)

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 光は熱情たっぷりに堂々と歌いあげた。美鈴は余裕を持ってしなやかに弾ききった。春香は力強いドラムで客席まで震わせた。青山さんのギタープレイは中学生とは思えないほど鮮やかで美しかった。    その結果、点加のバンドは客席をざわつかせることとなった。誰も選ばないような歌のチョイス。ボーカルの唯一無二の迫力。ギターのうまさ。ドラムの力強さ。ベースのセンス。他のバンドとは圧倒的に桁の違う完成度。    だが目立ちすぎる後輩は、先輩にとって、決して面白い存在ではない。先輩の中には明らかな敵意を持って睨みつけてくるものもあった。しかしそれは、このバンドが大きな爪痕を聴くものの心へ残したという証拠以外の何物でもなかった。  点加は演奏中、何をしていたかというと、「ギターを弾いているふり」をしていた。だが周りの演奏があまりにも圧倒的だったため、誰も気づく気配はなかった。    舞台をおりる時、「あのこ、何弾いてたの?」という声がちらっと聞こえてきたが、聞こえないふりをして、通り過ぎ、席へ戻った。椅子の上には、置き去りにされたコードがあった。    突然肩を叩かれ、びくりと振り向いた。春香が満面の笑みを讃えて、点加を見つめていた。 「うまくいったね!」春香は頬を火照らせながら、満足げにそう囁いた。点加は力なく「うん」と答えた。 「全然うまくいってないよ」ハッとして振り向くと、青山さんがじっと点加を睨みつけていた。その瞳にはうっすらと涙が浮かんでいた。 「え?どうしたの?」春香が困ったように二人を交互に見た。「なんかあった?」 「この人、コード繋いでなかったんだよ」 「え?」 「アンプとギター、繋いでなかったんだよ」 「え?え?どういうこと」春香は笑顔のまま混乱していた。 「だから、音、出てなかったんだよ」  点加は彼女を鎮めようとして、素早く謝った。「ごめんね」   
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