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青山さんは「ごめんじゃないよ」と言った。「そんなんで済む問題じゃないよ」
点加はハッと息を飲んだ。青山さんの目には、うっすらと涙が浮かんでいた。
点加は青山さんが自分の分まで怒っているのだと気が付いた…点加はそれで、さらに彼女が憎たらしくなった。憎たらしいあまりに、「でも、うちのギター、なくたって、支障なかったでしょ。」と言った。
青山さんは、「信じらんない。」と吐き捨てた。「そんなやつと思わなかった」
それから青山さんは点加などもはや視界に入れる価値もないというようにぐるりと顔を背けて、自分の席へ座った。点加はふらふらと椅子へ尻を沈めた。春香が心配そうにのぞきこんできたが、気づかないふりをした。
ステージの上では、次のバンドが演奏を始めたところであった。しかし音楽は耳から耳へと通り過ぎていくだけで、頭に入ってこなかった。ただ一つだけ明らかなことは、点加たちの出番の時のような異様な客席の盛り上がりは、すっかり消えてしまったということだけだった。点加はそれを悔しく思った…自分たちのバンドより上手い奴が出てくることを、そして客の記憶からベーコンズの存在が消えてしまうことを願った。しかし願いは叶わなかった。みんな下手くそだった。あれくらい下手くそだったら点加のエアギターはバレてしまうに違いなかった。
鷹山先生が遠く、舞台袖の壁に寄りかかって、じっと舞台の上を見つめていた。メガネのガラスに、色とりどりのスポットライトが反射しては消え、反射しては消えを繰り返す。点加は情けない自分の姿を見られたのかと思うと、消えて無くなってしまいたい気持ちがした。
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