バンド&ベーコン(中学一年生、春)

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 ライブ以降、それまでどこか色眼鏡で見られていたようなところのあった光や青山さんに対しては、今までと違った、尊敬を込めた眼差しが向けられるようになった。光には数人のファンさえついていた。春香も以前は話さなかったような生徒から話しかけられることが多くなったようだった。    しかし彼女らは貪欲だったので、一度の成功くらいで調子に乗ったり、練習を減らしたりするようなことはなかった。むしろ日曜日だけだった練習は土曜日にまで拡大された。前よりも皆、バンドに対する熱が上がっているようだった。    誰も点加の失態には触れなかった。それどころか、壊れ物でも扱うかのように、いつもより大事そうに点加を扱った。点加もまた、あの時自分はしっかり演奏していたのだがアンプの音が小さかったのだと言うあからさまな嘘をつき続けた。嘘を言い続けるうちに、自分でも本当にそうだったのだという気がしてきた。    点加は段々と、練習をサボるようになっていった。ギター教室も同様だった。汚い部屋の隅っこで、四万五千円のギターが、場違いな輝きを放ち続けた。やがて部屋の真ん中へ出しっ放しにしていたギターはケースへしまわれ、本棚の裏側の、目につかないところへ置かれるようになった。   そんなある日ギター教室から、母に連絡が入った。点加がここ一ヶ月ずっと教室をサボっているという連絡だった。
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