バンド&ベーコン(中学一年生、春)

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 夏の初めの夕方、点加は退学の挨拶をするために、ギター教室へ向かっていた。    商店街では、夏祭りをやっていた。かき氷を片手に練り歩く浴衣姿の若者たちの横を、点加は憂鬱な気分で行き過ぎていった。ギターを背負っていないのにも関わらず、足取りはいつもより重たかった。    やめる理由は、「勉強が忙しくなってきたから」ということにしてあった。色付きメガネをかけた中年の講師は問い詰めるようなことはしなかった。ただじっと点加を見つめて、横を向きながら、こういった。 「やめる理由がなんであれさ。」 「はい。」 「音楽が嫌なものだとは、決して思って欲しくないんだよね。音楽って、本当に素晴らしいものだから。」  点加は遠回しに、その素晴らしい音楽とうまくやれないお前は素晴らしくないのだと言われているような気がした。  帰り際、点加は自分と同い年くらいの、ギターを背負った利発そうな女の子とすれ違った。彼女はここの新入生らしかった。扉が閉まる寸前、楽しそうな講師の笑い声が聞こえてきた。そんな笑い声は今まで聞いたことのないような気がした。点加はすっかり惨めな気分で、商店街の脇の、人通りのない道を選んで帰った。
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