ポルノ&マングース(中学二年生、秋)

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「現代文の宿題、終わってんだろ、見せな」 「またパクる気かよ」 「ごちゃごちゃいってねえで見せろ」  殴られるのも嫌だったので、点加は大人しく差し出した。みどりは勢いよくふんだくると、お礼も言わずに写し始めた。  前を向くと、先生が諌めるような視線でこちらをじっと見つめていた。点加は慌てて真面目な顔つきを作ると、素早く教科書へ目を落とした。  左隣の席から、微かないびきが聞こえてくる。赤みがかった髪の毛を机の端まで垂らし、つけまつげを隙間なくびっしりつけた瞳を半開きにし、気持ち良さそうにヨダレを垂らして眠っている彼女は、明日香という名のギャルである。明日香はこのクラスの、一番の権力者だ。  右の席から、せわしなくボタンを押すカチカチ音が聞こえてくる。机の下にケータイを隠し持って、画面を見ずにメールを打っているのだ。彼女はエリといって、明日香の大親友である。髪を下品な金色に染めていて、顔はゴリラに似ている。いつも甘ったるい香水の匂いを漂わせて、ガニ股で教室を闊歩している。  先生たちはこの二人の問題児に常に気を引かれ、事あるごとに睨みつけるので、二人の間に挟まれた点加は毎回、生きている心地がしなかった。しかし逆を言えば、この二匹の暴れん坊のおかげで、少し喋ったくらいでは大して先生たちの目には止まらないのだった。今もよく見れば、先生の咎めるような視線は点加でなく、爆睡している明日香に向けられているのであった。点加はほっとしたような、がっかりしたような、名状しがたい複雑な気持ちになった。
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