ポルノ&マングース(中学二年生、秋)

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   宮沢さんが戻ってくると、いじめっ子たちは甲高い悲鳴をあげながら、明日香の席へと走って逃げる。    宮沢さんはタオルで口元を押さえながら、フラフラとロッカーへ近づいてゆく。床へ放り出された教科書を、無言で元の位置へ戻していく。その横顔は青ざめ、肩は小刻みに震えている。 「なんか、急に、ゲロくさくね?」教室中に響き渡る明日香の声に、取り巻きたちがケタケタ笑った。 「誰だよ?」 「くっさ」 「ほんと、急に臭くなったよね」  蝶番が破壊された扉は、何度やっても、きちんと閉まらないようだった。やがて宮沢さんは苛立ったように、勢いよく扉を蹴り飛ばした。けたたましい音が、教室中に響き渡った。明日香たちが目を見合わせてクスクス笑った。扉は不恰好に、宙に浮いて揺れていた。    宮沢さんがゆっくりと後ろを振り向いた。はじめから全てを見ていた点加は、慌てて視線をそらした。しかし間に合わないで、一瞬だけ視線が合った。宮沢さんが一瞬だけ微笑んだような気がしたが、点加は気づかないふりをして、素早く教科書へ目を落とした。
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