ポルノ&マングース(中学二年生、秋)

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   宮沢さんと点加とは、かつて友達だった。きっかけは点加の書いた例の恋愛小説を、宮沢さんが褒め称えてくれたことだった。彼女は点加のことを「天才」と呼んで持ち上げた。ファンアートと称し、小説の挿絵を描いてプレゼントしてくれることもあった。やがて点加のファンクラブを一人で立ち上げ、ファン一号を名乗るようになった。(そのほかに会員はいなかった)彼女のやり方は少しやりすぎとも思われるくらいであったが、点加はしかし、ちっとも悪い気はしなかった。点加は宮沢さんに、サインやポエムをプレゼントした。宮沢さんはその度点加を熱い瞳で見つめて、大切そうにそれらを「点加専用ファイル」にファイリングした。   だが宮沢さんがいじめられるようになると、点加は彼女をあからさまに避けるようになった。そして自分と宮沢さんとは、まるきり無関係のように振る舞った。    罪悪感を感じないわけではなかった。そのため点加はこういう風に思い込もうとした。自分は宮沢さんの偏執的で独善的な性格に、一緒に話していても心から楽しいと思えたことはなかったし、テストで何点とれちゃった、だとかいうさりげない自慢も鼻についたし、口の中にたっぷり唾をためて話す、あのねちっこい喋り方も前から気になっていた。それに例の点加専用ファイルの表には巨大な河童の絵がプリントされてあって、そのカッパが点加に似ていて可愛いなどという、およそ天才に対して発されるにはふさわしくない発言も気になったし、またプレゼントされる挿絵が暴力的に乙女チックな絵柄であることも、小説のイメージを塗り替えられるような気がして本当は嫌だった。つまり自分は彼女がいじめられる前から彼女のことをそんなに好いてはいなかったのだ。よって今、自分が彼女から目をそらし知らんぷりを決め込むことは、いじめとはなんら関係のない、自分と宮沢さんだけの間の話なのだ…。   しかしもし宮沢さんと話すのが心から楽しいことであり、もし宮沢さんがねちっこい喋り方をしなかったとしても、点加は宮沢さんがいじめの対象である限りは、全く同じ態度を取ったのに違いなかった。そしてまた今と同じように、自分の態度に対して、別の理由を考え出すのに違いなかった。    そして点加はそのことを特段悪いとは思わなかった。それは殺される豚をかわいそうだと思いながらポークカレーをたらふく食う矛盾について考えても仕方がないと割り切ることと、全く同じ種類のことだった。そして点加はそういう自分の考え方を、自分の成長と信じて疑わなかった。
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