ポルノ&マングース(中学二年生、秋)

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 点加はよく周りの生徒に、「なぜあんなに乱暴を振るわれながら、みどりちゃんと一緒にい続けるのか」という趣旨の、他愛のない質問をされた。それくらい、点加は人前で、よく殴られ、蹴られ、暴言を吐かれていたのだった。    しかし点加が好きでもないみどりといる理由は明白だった。それは明日香たちから身を守るためだった。強くて大きいみどりと仲良くしていることは、点加にとって大きな安心要素であった。みどりといる限りは、いじめられないはずだった。    それに点加にはみどりの性格の中で、まあまあ好きな部分もあった。それは点加が残した学食のカレーライスを米粒一つ残さず平らげてくれるところだったり、他の子が持っていないような少年ギャグ漫画を全巻貸してくれるところだったりした。またみどりはいつも中学生には似つかわしくないような大枚を所持していて、そのお金でコンビニのお菓子を気前よく奢ってくれたりもした。    だがそんないいところも結局は暴力のせいで台無しだった。みどりは何やら家庭環境に問題があるようだったが、それが具体的にどういうものなのかを語ることはなかった。それが原因なのか知らないが、常に苛立ち、むしゃくしゃしていた。その苛立ちは点加以外の友人の前では鳴りを潜めているようだった。みどりは点加を見ると「自分でもわからないがとてもイライラし、殴りたくなる」らしかった。点加はしかしみどりのその感情を全く理解できないというわけでもなかった。得てして人間には、自分より小さく弱い生き物を嬲りたい欲望が潜んでいるものなのだ。だが実際に殴るのはまた別の話であった。    みどりはテニス部に所属していたが真面目に部活に励んでいるようには見えなかった。みどりには一年の頃、仲の良いテニス部の友達がいたが、2年になって別のクラスになってしまったのだった。それで同じくはぐれものの点加と過ごすようになったのだった。    しかしみどりにはたまに話す程度に仲の良いテニス部の友人がもう一人いて、その子は点加たちと一緒のクラスだった。つまりみどりは点加がいなくなってもやっていける保険があった。点加にはそんなものはなかった。そしてその事実は点加の立場を弱くした。    音楽室や体育館などへ移動するときも、みどりは度々点加に向かって置いていくぞと脅した。点加はその度に恐怖に震え上がって、どうか置いていかないでくださいと懇願した。みどりの機嫌を損ねれば、点加はひとりぼっちになって、いじめのターゲットになるかもしれないのだ。    そんな風だったので、みどりと点加の関係はあまり健康的なものとは言えなかった。
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